零の旋律 | ナノ

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 手入れが行きとどいた甲板に出ると、海の潮風が香る。甲板にはオレンジに赤いラインの入った服に身を纏った集団がいた。甲板の開く音に、不審に思いラケナリアが視線を音がした方へ向けると見知らぬ人物が悠然と立っていた。その堂々さに、ラケナリアは不審人物であり且つ自分たちに害をなす存在だと判断し臨戦体形に入る。

「ははは、いいねぇ」

 アークの手にはラディカルから勝手に掠めとった大ぶりのナイフを握っている。
 別れ際に拝借していた。今ごろラディカルは背中が軽い事に気が付き、また盗んだのかと叫んでいる事だろう。アークは殆ど無意識で武器になるものを取っているため、一回一回選んでいるわけではない――相手の強さに合わせて武器を変更することはあっても。ラケナリアが一気にアークの周りを囲む。
 口元が笑みを浮かべる、不敵で大胆で――狂気的な。

「何者」
「アーク・レインドフ」

 名前を名乗るだけで充分。それ以上のやりとりは不要。レインドフの存在に気がつく者はすぐにレインドフを排除しようと動く。ラケナリアも同様だ。
 攻撃をしかけようとした瞬間――その動きは止まる。アークも物珍しそうに海の方へ視線を移す。
 何故なら、海から魔物と少年少女が現れたのだ。
 その姿にアークは見覚えがある、ホクシアとルキだ。魔物の羽ばたきと共に風に乗って看板に着地する。羽ばたきの衝撃で一部甲板が剥がれる。
 ホクシアの機嫌は悪いのか、眉に皺が寄っている。その手にはこの間所持していた刀は握られていない。

「……(アーク・レインドフ何故此処に)」

 ホクシアはアークの存在に気が付き、内心毒づく。仕事内容が何かは知らない。
 ラケナリアと友好的な雰囲気を築いていない以上、自分たちと敵対して来るとは思えなかった。しかし、可能性が零でない以上、考慮に入れる必要がある。ホクシアは慎重に周囲を見渡す。
 ラケナリアの標的はアーク・レインドフから魔族へ変わる。元々魔族を殲滅せんとする者たちだ、目の前の魔族という絶好の獲物が現れた以上黙ってはいない。ホクシアを殺さんと殺気を含ませ向かうが、途中反射的にラケナリアは後方に下がる。ホクシアは何もしてない、何かをする前に大ぶりのナイフが回転しながらホクシアの前を通過しただけ。

「……貴方も此処に来ていたのね」

 別段興味なさそうに、そのナイフの方向も見ず、ホクシアは呟く。

「今にも死にそうなお兄さんよ! また! 俺の武器とったでしょ!」

 ナイフの持ち主、ラディカルはホクシアには返事せず、武器を勝手に取られたアークに突っかかる。
 以前と同様。気がついたら背中にあるはずのナイフがなかった。
 何時掠め取ったのか、ラディカルには判断出来ない。気付かなかったとはいえ、抗議せずにはいられない。

「あー気がついたら掌にあった」
「嘘つけ! お兄さんが取ったんでしょ。俺の武器! 俺武器ないと結構困るんだけど」
「はっはっは」

 笑いながらも、アークはラディカルに武器を返すつもりはない。
 周辺で最もいい武器になりそうなのはラディカルのナイフだったからだ。


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