零の旋律 | ナノ

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 時間的にいいだろうと判断したアークは甲板へ向かう途中、意図してか無意識か――遭遇率の高い人物、ラディカルと遭遇する。
 軽く手を上げて無言の挨拶をするアークを視界に入れたラディカルは、目を丸くする。今にも悲鳴を上げそうな程驚いていたが、ギリギリのところで言葉を抑える。代わりに、咳き込んだが。

「相変わらず、毎回のことながら反応が眼帯君は面白いよな」
「今にも仕事モードのお兄さんはどうして此処に」

 深呼吸を繰り返しながら、落ち着いた所でラディカルは問う。

「俺? 俺は勿論依頼。それ以外にこの海賊船に侵入する目的があると思っているのか?」
「そういえばそうだったっけか」
「俺としては眼帯君が此処にいることの方が、どうして? なんだけどな」
「なぁ……お兄さん」
「なんだ?」
「人生相談してもいい?」

 突然の言葉にアークは一瞬目を丸くした後、声に出さず笑う。

「眼帯君、何をいきなり。まぁ構わないけど」
「俺さぁ……ずっと海賊ってのに憧れていたんだよね。何時かは海賊の船長になりたいって。でも海賊がこんなんばかりだったら――俺が憧れていたのって一体なんだろうって」
「憧れも何も、海賊なんて無法者であり、法を犯すものでしかなくて、犯罪者だろう。海賊なんて、そういったものだろう?」

 真っ当な、そしてあたり前の答えにラディカルは寂しそうに口元を緩めた。

「まぁ、そうなんだよな」

 望んでいた回答と違って落胆したわけではない。何の変哲もなくあたり前に応えられ、海賊なんてそんなものかと、納得してしまう自分が寂しかった。
 長年、憧れ続け、海賊の船長になることを夢見てきたのに、何かがあっただけで、その目的が容易く揺れ動いてしまう。意志薄弱の夢だったのか――だとしたら、とても寂しかった。そうでないと願いつつ、そうであったと納得してしまう。
 否定と肯定が入り混じった表情にアークは腕を組みながら言葉を続ける。

「まぁ、そんな犯罪者に憧れる人がいるからこそ、海賊とかそういった奴らが今でも後を絶たないんだろうけどな。眼帯君みたいに。でも――眼帯君は海賊に一体どんな幻想を抱いていたんだよ」
「幻想ってか、俺さ、昔海賊に助けられた事があったんだ。最も裏切られたけど」
「ふーん。まぁ俺は眼帯君の過去になんて興味はねぇけど」
「有難う。今にも死にそうなお兄さんに人生相談したら気持ちが楽になったわ。でも――始末屋のお兄さんに人生相談なんてするもんじゃないっすね」
「そりゃあそうだろう」

 今後何かの手違いで、人生相談する依頼がやってきたらどうするべきかアークは密かに考える。
 ラディカルのような人物ならいいが、それを依頼として持ってこられれば流石のアークも悩む。

「じゃあな、眼帯君」

 ラディカルに背を向けて、狭い通路をアークは進んでいく。これ以上ラディカルと会話を続ける必要はない。最もラディカルと合わないように行動しても別に構わなかったのだ。


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