零の旋律 | ナノ

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「今にも死にそうなお兄さん規格外過ぎるでしょ……」

 ナイフと小枝と同等に扱われている事実に落胆するよりも、アークの行動に対しての驚きの方が勝る。

「主はモップでも戦ったことがありますよ。ただモップではもう戦うかって叫んでいましたけど」

 地面にへばり付きながらラディカルが呆然としているとヒースリアがラディカルの方へ近づき、嘗てアークがもう戦わないと断言した数少ない武器を思いだす。

「……そりゃ、モップじゃ武器にならないか」
「いえ、使用済みモップで水滴が自分の服にかからないように戦うのが面倒だったから使わないそうで」
「気にするとこそこかよ!!」
「重要事項ですよ。綺麗かもわからない水ですよ?」
「だったら最初からモップを選ぶなっ!」

 当然の突っ込みヒースリアは軽く笑う。へばりついているラディカルに手をさし伸ばそうという思考はない。ラディカルもそれを待っているわけでは当然ない。
 むしろヒースリアがラディカルに手を伸ばしたら、恐怖に身体が震えたことだろう――あり得ないと叫んで。

「まぁ至極当然の突っ込みですが、真っ当すぎてセンスの欠片もありませんね」
「駄目だしするのは俺じゃなくて小枝お兄さんだろ!」
「小枝で魔物を三体程既に倒していますねぇ」

 のんびり実況を告げる。

「本当に、物騒執事は相変わらずだな」
「貴方に相変わらずと言われる程密会を重ねたつもりはありません」
「密会なんて一回もしてねぇだろう」
「したくもありません」
「……はぁ」

 ヒースリアとの会話に疲労を感じるラディカルだったが、何時までも地面に座り込んでいる場合じゃないと置き上がる。身軽な動作で立ち上がった後、自分が助けた魔族の少年を見る。
 何故――自分を助けてくれたのか、理由がわからないでもなかった。
 だからこそ自分はどうすればいいのか迷う。魔族と敵対したい思いはない。だからこそ魔族の少年を助けた。

「っ……」

 眼帯をしている瞳が痛むようで咄嗟に手で覆い隠す。

 アークは小枝で戦っていたが四体目の魔物と退治した時、小枝の強度が持たず、真っ二つに砕ける。

「あ……」

 一瞬だけ他に武器がないか探した結果、割れて手頃なサイズになったコンクリートの破片を手にする。
 何でも武器にしてしまうアークは、目についた最も手頃な物を選ぶ傾向にあった。
 何も武器になりそうにないとアークが判断した時は、アークが服の中に仕込んでいる武器を取り出し戦うのだが。それをすることは滅多にない。何せ小枝すら武器として扱うのだから。
 武器を取り出し戦うのは――自分と同等の強さを持つ相手と対峙する時のみ。

「何なのよ、あいつ本当に……」

 強風に足をとられることなく、強風をもろともしないアークに少女は苛立ちを隠せない。
 シデアル全体を包み込むような強風を少女は起こしていた。
 風にのって少女の耳には街の人々の悲鳴が聞こえる。風によって思うように脚が動かない。進めない。迫りくる魔物。逃げられない、絶望と悲しみと叫び声。


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