零の旋律 | ナノ

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「じゃあ、お前の兄を見かけたらお前の所まで兄を連行しながら来るさ」
「お願いするね」

 後半、何か恐ろしい台詞を言っていたのをハイリは空耳だと判断した。
 情報屋シャーロアの自宅から出る。朝日が眩しい。天候は快晴。微風。船出には丁度いい気候だなと、空を眺めながらアークは思う。ハイリが杖を持って後に続く。

「ハイリ、ラケナリアが船を拠点しているってことは、しかも海賊として表向きはいるらしい。つまり乱戦が予想されるがついてくるか?」

 自分の身は自分で守れよとアークは言葉には出さないが、瞳からハイリは読みとる。

「誰がついて行くかっ! そんな戦闘狂のいる危険地域に」
「俺が一番危険なのかよ」
「当たり前だろ? お前なら一体多数でも余裕じゃねぇか。お前が苦戦をする程の強敵がいるとは思わないしな、第一俺が云ったって人質にされるがオチだ」
「否定はしない」
「だろ。俺は宿でのんびりと休む」
「レインドフには戻らないのか?」

 勝手に、服を物色して構わないと遠回しに告げているが、ハイリは首を横に振る。

「あの、高級な宿でもう一晩泊まりたい。お前の家でもいいが、ヒースがいると落ち着かない。というわけで宿泊費を寄こせ」
「リアトリスにしろお前にしろ、俺から金をせびるやつしか俺の周りにはいないのか」
「物資の流通だ」
「同じことをリアトリスにも言われた」

 似た者同士なのだろうか、と密かにアークは思う。最も、似た者同士だったとしても、似ても似つかない部分を多分に含んでいる。
 アークはハイリと別れ、船に忍び込む。表は海賊船として振舞っている以上、どくろの旗印でも掲げているのかとアークは思っていが、予想に反してどくろの旗はなかった。
 交流都市ホクートは海賊の停泊を影で認めている節があった。交流都市である以上、どんなものでも交流し、資源や商品を流通させる事が目的だ。但し、軍に見つからない為の工夫として、停泊中は海賊船の旗を降ろす事が条件だ。
 仮に、軍に海賊船だとばれたところで、旗がなくて気がつかなかったと誤魔化す事も可能だからだ。
 時々、そのような影のルールを知らずにやってくる海賊船もいるが。その場合交流都市ホクートは全力で海賊船を排除する。海賊専門の用心棒を雇っているくらいだ。
かなりの実力を保有した集団がいることをアークは情報をして認知していた。機会があれば刃を交えてみたいとも密かに思っている。その影のルールにラケナリアものっとっているのだろう。

「……(それにしても、魔族が住んでいる場所って何処だ? それに海賊というと眼帯君か。まさか紛れていたりして)」

 冗談半分。噂をすれば、何とやら。見知った気配を察知する。

「はは、本当に遭遇率が高い」

 軽く笑う。周辺に人の気配はない。あの気配の持ち主も自分が此処にいるとは思ってもみないだろう。
 揺れる。船が出港したことを揺れで確認する。揺れは少ないが、それでも船が動いていると感じさせるのには充分だった。
 港から離れるまでアークは待つ。港からこの船が視界に映らなくなるまでだ。
 その間、ラケナリアに出会わないようにしながら、帰りの手段を探す。小舟を見つけ、アークはそれを利用しようと決める。大抵、船には何かあった時の為に小舟が取りつけられている事が多い。
 初めて眼帯君――ラディカルと出会った時も小舟を利用して、港に戻った。
 ヒースリアにオールで漕ぐのを手伝うように言ったら、一刀両断する勢いで断られたことを思いだす。
 アークとしても手伝いを期待していたわけではない。むしろ笑顔で手伝いますと言われたら仰天の余り、ヒースリアを海へ突き飛ばしていた事だろう。


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