零の旋律 | ナノ

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「ラケナリアの目的は……魔族の殲滅することみたい」
「魔族か」

 最近、魔族関連の言葉をよく聞くなとアークは感じる。それだけ魔族が活発に活動している証拠だ。
 しかし、同時に疑問が生まれる。アークはラケナリアの殲滅を魔族から依頼されたわけではない。人族だ。人族は大抵魔族を嫌悪している。その人族が魔族を殲滅しようとしている組織を滅ぼしたいと願うだろうか。最も、依頼人もラケナリアについて明確な事を知っている印象はなかった。名称からして間違えていた。ならば、魔族殲滅が目的だと知らない可能性もある。
 ――まぁ、どちらでも構わないし、どんな思惑でもいいが

「なんで、ラケナリアは魔族を……。ううん、何でもない。ラケナリアの目的に当然魔族も気が付いているみたいで、何度か魔族の襲撃を受けているみたい」
「そりゃあ、そうか」

 アークはホクシアの姿が自然と浮かぶ。あの性格からして、そして魔族からして自分たちを滅ぼそうとしている組織を放置しておくはずがない。

「さて、今までのは前情報だけど、こっからがアークが欲しがっている情報かな。ラケナリアは今日の午前十一時に船を出港させるの。それで魔族が隠れ住んでいる土地へ向かうみたい」
「ほう」

 アークの口元が孤を描く。隣にいるハイリは今すぐに現状から逃げたい心境になる。

「ラケナリアが隠れて停泊している場所を教えるね」

 情報屋として凄腕という噂は嘘ではないと、ハイリは改めて実感する。どうやって此処までの情報を入手したのかは定かではないが、半日程度で集められる情報ではないことだけはわかった。

「わかった。シャーロア、情報料はいくらだ?」
「そういえば、最初に情報料を私に聞くことはしなかったね。何故か聞いてもいい?」
「依頼に見合うだけの情報を掲示してくれれば、俺はいくらでも払うつもりだったってだけだ」
「成程ね。まぁ、私は別に情報料をぼったくるつもりもないけど。お金はいらない、けど代わりに私と同じ髪色の人物を見つけたら教えて貰えるかな? それが情報料ってのはあり?」
「別にそれでも構わないが、やけに拘るな。何かあるのか?」

 情報料の代わりとして、アーク・レインドフに、加減によっては青にも紫にも見える不思議な髪色をした人物を見つけたら、教えて欲しいと頼むとはどれ程の人物か。

「私の……お兄ちゃんなんだ」
「兄か」
「うん。私が情報屋をやっているのもお兄ちゃんを探す為だから、でも一向にお兄ちゃんの足跡が掴めないんだよね、何処にいるんだろ」

 後半は殆ど独り言のような物だった。シャーロアの言葉に、ハイリは気がついた事があった。
 シャーロアの兄は意図的に姿を消していると。半日であそこまでの情報を集めることが出来るシャーロアの腕前ならば、兄を探しだすことも不可能ではない。
 しかし、それでも消息が一向に掴めないのならば、兄自らが消息を掴ませないように行動しているからに他ならない。
 案外、この近くでシャーロアの動向を観察している可能背もある。アークは気配に鋭いが、殺気の類でなければ、人の気配がした所で気にしない。何せ此処は街中なのだ、人の気配などあたり前。
 但し、この可能性をハイリはシャーロアに伝えない。兄を探しているのが本心ならば、このことを伝えたところで、シャーロアを落ち込ませることにしかならない。


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