零の旋律 | ナノ

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 その間にアークも戦い終わったのだろう、ハイリの言動に苦笑していた。

「どういうことだ!?」
「リィハ。お前素人すぎ」
「は!? 何がだよ」
「シャーロアが戦えるから、わざわざ目的地まで案内を頼んだに決まっているだろうが」

 あっさりしすぎている言葉に、今さらながらハイリは納得する。

「何か、つまり俺だけシャーロアは戦えないと判断していたってわけか?」
「俺の見立てじゃ、リィハよりかなり強いと思うけど。なぁ」
「私に言われても……リィハがどれくらいなのかわからないから」
シャーロアも苦笑しながら、笑う。ハイリは肩を落としてがっかりする。
「全く、何なんだし、戦えるなら最初からそういってくれよ」
「ナチュラルにアークは私を同行させたから、てっきりリィハも気が付いているものかと」
「……余計に心が抉られる」

 何より、自分よりも年下の少女。それも情報屋より弱い事実が、いくら治癒が専門だとはいえ、ハイリの心を抉る。

「何だ、此処は俺を虐める会か?」
「その程度で虐めだったら、俺が普段から受けている扱いは虐めの域を凌駕するぞ」
「あれはお前ん家がおかしいだけだ」
「それは否定できないけどよ」

 笑いながらアークはいましがた昏倒させた男たちへ近づき、屈む。
 視線を合わせ、ラケナリアについて新たに聞こうとしたが

「ラケナリアはどうやら、本拠地が別にあるみたいですね」

 シャーロアの言葉によって、余計な手間が省けた。

「……何故わかった?」
「企業秘密です」

 口元に手を当てて、内緒とはにかむ。アークはそれ以上言及しなかった。
 どんな手段を用いていたとしても、アーク・レインドフの興味の対象外だ。
 シャーロアから必要な情報を入手出来ればそれで構わない。例えシャーロアに何か裏があったとしても、だ。

「んーもう少し情報を纏める時間が欲しいですね。すみませんが、明朝またきてもらえますか?」

 シャーロアの言葉に、アークとハイリは頷く。
 シャーロアは身軽な足取りで、スキップしながら元来た道を戻って行った。
 ハイリは両手で腕を組みながら、木を背もたれにする。

「なぁ、アーク」
「なんだ?」
「あの少女、本当に情報屋か?」
「さぁな」
「……シャーロアとかいう少女、情報屋を名乗っている割には、情報屋らしくなさすぎる。年齢とか、そんなものは関係なく。不用心で、知らなくて、ルールを理解していない」

 ハイリの最もな言葉に、アークは苦笑する。ハイリはシャーロアを警戒と疑惑の目で見ていた。
 シャーロア本人は恐らく気が付いていない。戦闘には長けていないが、視線や思考を誤魔化すのにハイリは長けていた。アークはハイリと長い付き合いがあるからこそ、些細な表情の変化も見抜けるが、初対面ではそうはいかないだろう。

「別に構わねぇんじゃねぇのか? 裏関係の情報屋にしろ、素人にしろ。俺は情報が入手出来ればいい」
「裏切られるかもしれないぞ?」
「そんなのそれはそれ、だろう。仕事の邪魔をするなら、その時は切り捨てればいいだけの話」
「……そうだな!?」

 ハイリの眼前にアークが迫っていた。深淵に囚われた紫色の瞳が、ハイリを捉える。蜘蛛の糸に囚われた錯覚に陥り、息が詰まる。笑みを浮かべる口元は邪悪で感傷を抱かないように映る。

「それに、裏切るのならばシャーロアより、俺はお前が裏切りそうだって思っているけどな」
「はっ、冗談を。離れろ、気色悪い」

 両手で肩を掴み、前に押しやる。呼吸が僅かばかり楽になった気になる。

「俺がお前を裏切ったところで、俺に得することは何一つないだろう、俺が得することがあると思っているのか?」
「俺が思う限りではないな」
「下らない冗談だよ、全く。俺がお前を殺せるわけがないし、俺がお前を謀れるわけもない。無駄足で損することはあっても得する要素は万が一にも転がっていないよ」

 肩をすくめる。戦闘面でアーク・レインドフに勝てる確率を希望的観測で見積もっても、勝率をハイリは生み出せないと確信していた。


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