零の旋律 | ナノ

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「そういえば……お二人の名前はなんですか?」

 ハイリは僅かに目を細める、心中に一つの疑惑が生まれる。

「俺はアーク・レインドフ。こっちの柄が悪そうなのがハイリ・ユート」
「おい、勝手に俺の自己紹介までしてんじゃねぇ。つーか、俺は柄悪くない」
「と、この通り柄が悪い」
「……」

 ハイリは舌うちをしながら、横目にシャーロアを見る。本当に珍しい髪色だと感じた。
 周辺界隈、何処ろか、それ以前にシャーロアと同様の髪色を見たことがない。魔族の証である金眼よりそれは珍しい色合いだろう。

「俺はリィハって呼んでいるから、多分ハイリよりそっちに反応してくれるぞ」
「では、アークにリィハですね。レインドフって、確か始末屋ですよね?」

 シャーロアは自身の記憶を手繰り、レインドフ家の存在に気がつく。

「……あぁ」

 アークは僅かに間を空けてから返答する。
 そうしている間に、小屋に辿り着く。
 アークが気配を探ると、都合がいいことに二人の気配を感じ取った。荷物として持っていた杖を後ろにいるハイリに向かって投げる。ハイリは慌てて杖を受け取る。抗議しようとした時、アークは既に小屋をノックしていた。
 相変わらずの仕事中毒だ、とハイリはため息とともに呆れる。それと同時にシャーロアには被害がいかないようにしようと、気がつかれない程度に前に出る。
 最もアーク・レインドフがその程度のヘマをするとは思ってもいない。

「何だ? あんたら」

 二人組の男が小屋から出てくる。突然の来訪者を不審に思っているのだろう、両手には武器が握られている。無精ひげを生やし、荒事が得意と外見で語っているような二人だった。
 アークは飄々と、手で千本をクルクルと遊んでいる。余裕がある時は武器を回して遊ぶ癖があった。

「ラケナリアであっているか?」
「……何者」
「アーク・レインドフ」

 端的に名乗る。レインドフの名に気がつくか、気がつかないかの問いかけも含まれていた。
 案の定、レインドフの名前に男たちの顔色が変わる。
 そのまま、片方の男が襲いかかってくる。アークはひょい、と身体の重心を軽くずらし交わす。

「ビーンゴ」

 爛々と輝く瞳は、相手を獲物と捉えている。

「間違っていなかったみたいだね」

 シャーロアは、情報が正しかったことの確認を取る。手首からの手袋を取る。二重構造だったらしく、二の腕からしている手袋は指先が見えるタイプで、整った指先だけが見えた。
 アークが飄々と交わしている――殺さないように、かつ適度に手心を加えながら戦っているのが、ハイリでも理解出来た。もう一人の男が此方に、正確にはシャーロアに向かってきた。アークは眼中にないのか動かない。見るからに少女であるシャーロアを人質にしようという算段なのだろう、ハイリはシャーロアを庇おう、と行動に出る前に、シャーロアが素早く動いた。
 六華のペンダントが一瞬だけ淡く発光したと思うと、右手のひらの先から氷の花が生まれる。
 シャーロアが後ろから、手を前に移動させると、それと同時に氷の花が、一枚一枚鋭利な刃の用に、男に突き刺さる。致命傷は全て避けてある。しかし、痛みで男は地面に転がる。

「え? え? えぇ!?」

 呆然とハイリは、シャーロアといましがたシャーロアにやられた男を交互に見比べる。


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