零の旋律 | ナノ

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 ハイリを引っ張ってアークは交流都市ホクートに来ていた。交流都市と呼ばれるだけあって、街は活気で賑わい、道行く人の恰好は様々だ。他の国から来ている商人もちらほら見られる。
 煉瓦造りの建物で統一され、地面も煉瓦が敷き詰められている。
 芸術家がデザインしたと思われる、独特の、一見すると何が描いてあるか判断出来ない動物の模様が多数描かれている。
 掲げる大半の看板に水仙が描かれている。この街のトレードマークだからだ。

「確かホクートで活動しているって話だったぞ」
「まぁホクートは情報屋が多いからな」

 様々な人が出入りする都市の為、様々な情報が入手しやすい。此処はアークの知る限り王都を抜き一番情報屋の数が多かった。次点は王都だ。

「しかし外見まではしらねぇぞ。あぁ、でも変った髪色だって話だな」
「変った?」
「あぁ。何でも此処ら界隈では見かけない色らしいぞ」
「それは探すのに便利そうだ」
「俺の情報が間違っていたらな」
「あぁ、わかっているさ」

 口元を歪める。悪人の笑み、にピッタリだ。
 ハイリとアークは街並みを見物するかのように歩きながら、変った髪色を探す。一応、ハイリが情報屋の居所を知っていたが、その噂が既に古い可能性もあるからだ。
 ハイリの杖はアークが持って歩いていた。杖を武器として扱う癖に、あまり体力のないハイリはずっと杖を持って歩くと力尽きる。

「お前、何で杖を持っているんだよ」

 治癒術の時に使用するならまだしも、扱いもしない。

「殴打用」

 きっぱりと答えるハイリにアークは苦笑する。もっと別の殴打用を用意すればいいのにと。ハイリが望めばアークは腕前が確かな武器職人の一人でも紹介するつもりだが、その可能性は低いだろう。

「さて、此処か。噂があっていればな」

 他の建物と同様に煉瓦造りだ。看板は特に何も掲げられておらず、店として出しているわけではないようだ。扉には水仙と共に六華の氷の紋様が描かれている。
 こんこん、と扉をアークがノックすると返事があった。
 少し扉は古ぼけているのか、開けると突っかかるような音がする。

「いらっしゃい」

 扉を開けてすぐに見えるのは、黄色く淡い光と共に、木片で造られた机。そして二人を真正面から見据える形で一人の人物が座っていた。

「初めまして、私はシャーロア。宜しくね」
「あぁ。(なんつーか、若!)」

 情報屋シャーロア。その素性に関しての噂は殆ど流れる事はなかった。
 ただ、情報屋として優秀であること、髪の毛が代わっている事。名前からして女だという事。
 アークはシャーロアに驚きを隠せなかった。

「(リアより若いか)」

 レインドフ家で雇っているメイド、リアトリスやカトレアよりまだ若い。年十五・十六の少女がそこには座っていた。
 水色の髪は光加減で紫にも青にも見えそうな幻想的な色合い。確かに見かけないとアークは思う。
 瞳の色は深い青。髪の毛の左右には薄い水色がかった灰色のリボンがついている。
 黒いタートルのハイネック。セーターを改造したような、上着を緩く羽織っている。黒い手袋を二の腕辺りと、手首で二重に嵌めていた。
 シャーロアは片手で座るように促す。アークは一つしかない椅子に座る。ハイリはアークの隣に立つ。
 元々情報屋として予め準備された空間なのだろう。シャーロアの後ろの壁には扉があるところを見れば、そこが私生活としての空間として活用されている場所だと判断出来る。


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