零の旋律 | ナノ

海賊眼帯


+++

 ――あぁ、此処にいたんだ
 ――見つけてしまえば簡単なもの
 ――我らラケナリア

 アーク・レインドフは悩んでいた。その様子を興味深そうに間近でヒースリアが見る。

「うおっ近っ!!」

 アークがのけぞって距離をとる。

「早く気がつかないものだから、どうなるか気分最悪になりながら試してみました」
「気分最悪になるなら最初からやるなよ」
「普段なら嬉々として依頼に出かけてくる主が、途中でぶっ倒れていたのを私が発見して拾ってきてから、何故か悩んでいたら興味深くなるものでしょう」

 四日前。アーク・レインドフはとある依頼を受けていた。何時も通り仕事中毒のアークはさっそく依頼を達成すべく動いたが、三日後力尽きて倒れた。一人で行動していた為、三日後ヒースリアがアークを回収しに赴いていた。未だ依頼は継続中だ。何故なら依頼主も明確な答えがない依頼だった為、その答えから見つける必要があった。三日探しまわって成果は零。

「ラケナスってなんだよ」

 ラケナスを殺して欲しいと依頼された。
 そもそもラケナスが何か、アークは知らなかった。だからこそ依頼が難航していた。

「さぁ、私も聞いたことはないですから、それ関係ではないとは思いますけれど……」
「なら情報屋に聞いてみたらどうだ?」

 扉が開くと同時に聞きなれた、けれど珍しい声がする。
 扉の方へ視線を向けなくても誰だかはわかる。

「リィハ。情報屋なんて当てにならないだろうが」

 リィハ。本名ハイリ・ユート。アークとは昔馴染みの治癒術師だ。治癒術師としての腕前は一流だが、いかんせん料金が異様に高い。それでもレインドフは怪我をした時、ハイリに治療を頼む。
 白髪の髪は肩にかからない程度。黒い帽子を軽く被っていて、右手には杖を握っている。

「それがそうでもいないみたいだ。今この大陸にシャーロアって情報屋がいるんだが、そいつがかなり凄腕らしい。風の噂だが信憑性は高いと思うぞ」

 仕事がある時以外は屋敷にいることが多いアークとは違って、ハイリは常にこの大陸をうろついている。
 道中で耳にする噂も多い。

「シャーロア? 知らない名前だな」
「俺も初めて聞いたが、何やら此処最近、情報屋を始めたらしい」
「ふーん。どんな奴?」
「詳しくはしらねぇ」

 ハイリは別段情報屋を利用するような仕事はしていない。ただ怪我しているに高額な料金を示し、承諾されれば治療し、拒否すれば放置するだけ。お蔭で恨みはあちらこちらから買っている。

「まぁいいや。それより」
「ん?」
「なんでリィハが此処にいるんだ?」
「それもそうですね、何故?」

 普通に会話をしていたが、ハイリは元々レインドフ家に呼ばれた訳ではない。
 勝手に屋敷に上がっていた。ハイリが屋敷にいる分には問題はない。仮にハイリに殺気があったとしてもアークは気にも留めなかっただろう。

「何かいい服がないか物色していた」

 さらりと目的を告げる。

「お前、この間も俺の部屋から勝手に服を物色しただろう」
「レインドフ家の服は生地が素晴らしいからな。それにアークの服なら問題なく着られるから」

 ハイリが現在着用している服もまた、昔アークの部屋から勝手にくすねたものだ。

「……俺からぼったくってんだから、それくらい自分で用意したらどうだ」
「服を買うために俺の財布からお金が出て行くのは嫌だ」
「……はいはい。じゃあ服を一着やるから、情報屋の元へ案内しろ」
「は!? マジで!?」
「服一着分働け」

 いつの間にかハイリの後ろに移動していたアークは首根っこを掴んでずるずると引き摺る。
 誰かに助けを求めようとして、目の前にいるのが苦手とするヒースリアだったため、断念した。顔が引きつっている。

「じゃあヒース、出かけてくる」
「私の自由時間が増えて素晴らしいことです」

 心なしか拍手が聞こえた。


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