零の旋律 | ナノ

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「お洋服をくれたわ。落ち着いた色合いのね」
「流石お兄様はセンスがいい」
「そうね。でも私はエレのセンスもいいと思うわよ。こんなに素敵なアルバムをくれたのだもの」
「有難う」

 王妃――母親と話していると、エレテリカの心は癒された。
 誕生日だ、他にも訪問者が来る可能性も考慮して怱々に部屋を後にして、自室に戻る。
 自室に戻ると、カサネが飲み物を用意して手渡す。
 飲み物を受け取りながら気になったことを問う。

「そういえば、カサネは何をあげたの?」
「花、ですよ」
「花ってまさか母上の部屋にあった花?」
「えぇ、とっておきの花屋に頼んでおきました」

 とっておきの花屋とは何処だろう、と思いながらカサネに問う事はしなかった。

 日も沈み、夕食も終わり王妃は自室で今日の素晴らしい出来事を忘れないように日記に綴っている頃合い。
 一人の青年が王妃の自室に訪れる。

「リーシェ!」
「シルレリア王妃、お誕生日おめでとうございます」

 臣下のような態度を意図的に取り、跪き、王妃の掌に収まる箱を手に乗せる。
 王妃がそれを空けると、中から出てきたのは硝子細工で作られたブローチだった。硝子細工の隙通る中に、青を中心とした宝石が花弁を描いている。

「有難う。遅いからすっかり忘れられているのかと思ったわ」

 冗談めかして王妃は告げる。視線はブローチに釘付けだった。そして、ブローチを取り出し現在着ている服につける。

「似合うかしら?」
「俺が選んだのだから勿論」
「でしょうね」
「忘れていたわけ、じゃなくて。意図的に遅くしたんですよ」

 そして、王妃の冗談に対して真面目に返答をする。相変わらずシェーリオルは服装を着崩している。

「でしょうね……。リーシェ、いらないところで気をつかわなくてもいいのよ?」
「……王妃。いえ母上。気を使っているわけじゃないですよ。ただ――夜に輝くブローチもまた素敵でしょ?」

 キザともとれる台詞を悠然とはくシェーリオルに、王妃は口元を隠すように手を当てて、軽く微笑んだ。

「有難う。大切に使うわ」
「良い日を」
「遠慮なんか、いらないのですからね」
「わかっていますよ」

 シェーリオルは王妃を背に、退室した。
 その後、自室に戻る気分にはなれず――カサネの部屋を訪れる。カサネが自分の部屋を訪れることはよくあるが、その逆は滅多にない。

「珍しいですね。シオルがここにくるなんて」
「相変わらずお前の部屋は物がない」

 カサネの部屋は必要最低限のものしか置かれていない。
 それは――何時でも此処からいなくなれる準備をしているようで寂しさが漂っている。

「あの花をプレゼントしたのはお前か?」
「えぇ」
「あれだけの花、よく注文出来たな」

 カサネが非公式に用意したのであれば、花屋にどうやって花を経由させたのか僅かばかり気になりカサネに問いにきた。今日、この日が王妃の誕生日だと――田舎町なら露知らず、城下町で知らないものはいない程浸透している。その中で、この日に合わせて沢山の花を用意したら、その花の意味が花屋に伝わる可能性もある。カサネがそれを良しとするとは到底思えなかった。

「えぇ。非公式の花屋を使いましたから」
「へぇ、便利な」
「とっても便利ですよ」
「お前がそこまで言うとは……、どんな花屋なんだ?」
「レインドフ家です」

 サラリと衝撃の言葉を告げるカサネに、シェーリオルは思わず笑いを噴き出しそうになる。

「最強の花屋だな」

 そして感想を一言。


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