X 「あっ眼帯君っ」 アークに助ける気持ちがあろうが無かろうが、間にあわない。 ラディカルは空回りした手を伸ばしながら海へ転落する。しかし水しぶきの音はしない。ただ単に魔物の咆哮でかき消された可能性もあるか、とアークが思った時だった。 高台の前に、海から魔物が現れる。その魔物の背には一人の魔族と、呆然と座り込むラディカルがいた。 魔族の少年はラディカルの耳元で何かを呟くと、ラディカルを陸地へ降ろしそのまま上昇し少女の隣に並ぶ。 摩訶不思議、といっても過言じゃない現状にアークは思わずラディカルの元へ近づく。 「眼帯君。なんで今魔族に助けてもらったんだ?」 「今のはっ」 見間違えるはずもない。あの時、ラディカルが助けた魔族の少年。 あの時見た時よりも大人びて見え、瞳は狂気に魅入られていても、あの時の少年に間違えがなかった。 自分を助けてくれた――死の淵から。その事実がどうしようもなくもどかしかった。 「知り合いか?」 怪訝そうにアークは尋ねる。魔族の知り合い等、聞いたことがない。他の友人関係にしたってそうだった。 「……」 ラディカルは何も答えない。 「まぁ別に追及するつもりはないけど」 無言の返答に苛立ちを見せる様子もない。答えようと、答えなかろうとどちらでも構わないから。 アークにとって魔族を嫌う気持ちはない。魔族と人族の扱いは変わらなかった。 依頼されれば魔族も殺すし人族も殺す、ただそれだけのこと。 魔族の少女は、少年がラディカルを助けたことに対してあからさまに怪訝そうな顔をする。 「どうして、助けた?」 「……あの人が俺を助けてくれたから」 少女にだけ聞こえるように少年は答える。 助けてくれた、ただ一人。唯一自分に手を差し伸べてくれた人。人族にあるにも関わらず魔族に親切にしてくれた。そんな経験はなかった。人族は魔族を忌み嫌い虐げ、自分たちの都合の云いように利用するだけの存在だと思っていた。けれどラディカルだけは違った生きる希望を与えてくれた存在。死んで欲しくはなかった、例え人族だとしても。それだけのこと。 「……そう。じゃあ貴方が云っていた助けてくれた人族が彼ってわけ、でも……彼は」 少女はそこまで言ってから口を紡ぐ。 ――確証がない段階で口にするのは憚られる、それに違和感は些細な違和感でしかない。 「まぁいいけど。助けてくれた彼を殺したくないのなら隙にすればいい、別に彼以外はどうなっても構わないのでしょう?」 「勿論」 例えラディカルが助けてくれたからといって、それで憎しみや恨みが消えることはない。 自分を魔族だからといって捕え、魔物を使役させ、それだけでなく村まで滅ぼした、大切な人を全て自分の手から奪い取った人族を許せるわけがない。ラディカルだけが特別。 「なら、さっさと終わらせましょうか」 「うん」 人族は敵。自分たちの存在を苦しめる、敵でしかない。情けや同情をかける必要はない。 少女が呪文を唱える。突風が吹き荒れ波は荒れ狂う。 「ひゅー、流石、魔族の使う魔法ってのは威力が高い」 アークは余裕綽々の顔で口笛を吹きながら小枝を武器にする。ラディカルから奪ったナイフは投げてしまった為小枝で代用していた。 「って小枝お兄さんっ、俺の武器って小枝と同等!?」 ラディカルは思わず叫ぶ。流石に小枝を代わりの武器として使用されるとは思ってもみなかったからだ。 地面に落ちていた小枝を、刀を扱うような手さばきでナイフを扱っていた時と変らないように扱う。 その姿にラディカルは呆然とするしかなかった。 [*前] | [次#] TOP |