零の旋律 | ナノ

王子贈物


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 リヴェルア王国、第三王位継承者エレテリカは今、繁華街へ出かけていた。唯一無二の腹心であり――エレテリカが最も信頼している相手――カサネ・アザレア共に。
 陽気な気候に、足を軽くしながらエレテリカはプレゼントとして送る物を探していた。
 エレテリカの親にして、王妃シルレリアの誕生日であった。
 誕生日の祝いの品を探す為――自分の目で見て判断したいエレテリカの希望もあり、カサネは二人で繁華街へと出ていた。

「カサネは何か渡すの?」
「えぇ。もう用意はしてあります。今ごろ届いたと思いますよ」
「早いなぁ。俺は何にしようか、毎年のことながら悩むよ」
「王子がプレゼントされるものでしたら、王妃は何だって喜びますよ」

 カサネはサラっと答える。それが事実だと知っているから。

「お兄様方は何をプレゼントするんだろう」
「まぁ、王子と品物が被ることはないと思いますから大丈夫ですよ」
「そうだよね」
「えぇ」

 王子、と呼ぶ時カサネは意図的に音量を下げている。自分が策士カサネ・アザレアとばれるのは一向に構わなかったが、エレテリカが王子であることが露見させるわけにはいかないからだ。
 さりとて、呼び捨てで呼ぶ気もない為、エレテリカ以外に聞こえない音量で王子と呼ぶのだ。
 エレテリカはさんざん悩んだ挙句、桜の縁取りがされたアルバムを送ることにした。華美過ぎないが、優美なアルバムだ。一目みて、エレテリカは気に入った品をプレゼントすることにした。

 王室に戻り、王妃がいる部屋をノックしてから入室する。カサネは入口で一度、礼をしてからエレテリカの後に続く。

「母上、お誕生日おめでとうございます」

 普段、豪華絢爛はあまり好まない王妃は、一般家庭にすれば豪華で――しかし、王妃の立場を考えれば質素な部屋にいる。しかし、現在その部屋は沢山の花が飾られていた。仄かな香りが心地よい。

「有難う、嬉しいわ」
「お気に召すかわからないけどプレゼント」
「開けてみても?」

 首を縦に振り、了承の合図を貰った王妃は包装を空ける。中から出てきたのは、桜の縁取りがされたアルバム。

「綺麗……。どんな写真でこのアルバムを埋めようか悩むわね。有難う」

 手招きをして、エレテリカにもっと近くまでよるようにいってから、エレテリカが近付いたところで優しく抱きしめる。

「嬉しい」
「喜んでもらえて、良かった」

 渡す前は、気に入らなかったらどうしよう、という不安があったが今はそんな不安はない。
 最もその不安が現実になったことは今まで一度たりともないのだが。

「そういえば、お兄様たちはもう此処へ?」
「リーシェはまだね」

 時刻は夕刻。エレテリカはプレゼントを探すのに時間を費やしてしまった為遅くなった。
 しかし、まだシェーリオルがプレゼントを――誕生日を祝っていない事実に少なからず驚いた。
 要領よく何でもこなすシェーリオルが王妃の誕生日を忘却しているとは到底考えられない。

「リーシェ兄さんが? 因みにお兄様は何を母上に?」

 お兄様、とは第一王位継承者のことだ。エレテリカはシェーリオルのみ、リーシェ兄さんと呼ぶ。
 元々リーシェお兄様と呼んでいたが堅苦しい事が苦手なシェーリオルが、お兄様と呼ばれるのを嫌った。それ以降、リーシェ兄さんと呼んでいるのだ。


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