執事憂鬱 「はぁ」 レインドフ家の屋敷のとある一室で執事こと、ヒースリア・ルミナスは盛大なため息をついていた。表情も何処となく疲れている。 「どうした? お前がそんな表情とため息をするなんて」 珍しい、とアークが声をかける。隣にはリアトリスも一緒だ。 「夢を」 「夢?」 「気分が最悪になる夢を見ましてね」 「どんな夢だったんだよ」 ヒースリアがため息をつくほどの――時間がたっても気分が回復しないほどの夢はどの程度のものか、アークとリアトリスは興味が湧く。 興味本意の問い。 「夢の中で私が――銃を持ってアークを殺そうとしていたのですが、銃の扱いが下手だわ、銃弾を装填する向きも方向もあったものじゃない入れ方をするし。まぁ何故か発砲は出来たのですが、しかし狙いも滅茶苦茶なんですよ……」 「そりゃ、駄目だな。ってか夢の中で俺を殺そうとしているのかよ」 「夢の中で殺したくなんてないですよ」 ヒースリアはきっぱりと否定する。予想外の言葉にアークは軽く首を傾げると 「夢の中で殺しても現実で生きていたら気分最悪になるだけです」 ヒースリアが断言する。成程、とアークは既に納得する。納得したくなくても、納得出来てしまい空しくなる。 「で、夢の続きはどうなったんですかー」 話がずれたので、リアトリスが修正する。 「銃で殺そうと片っ端から放っていくんですが、途中で私が放った銃弾をアークが弾き返して私は間一髪で交わせたんですが、その後の私の台詞が『殺す気か!』だったんですよ」 「あわー」 「もう、なんか最悪の夢でしたよ……夢の中で負けるし、銃の扱いは無茶苦茶だし、私が殺すつもりだったのに反撃されたら殺す気かって叫ぶし……」 「ご愁傷様ですー。それは夢見心地が悪いですね。私もそんな夢みたら今日一日立ち上がれなさそうですものー」 「まぁ、勝ったら勝ったで嫌な夢なんですけどもね」 夢は夢で、現実では勝っていないのだから。 最も、それを言えば夢で負けて殺されかけても――それは夢なのだが。 どちらにしろ、そのような夢をヒースリアは見たくなかった。 「それもそうですねー。勝った余韻に浸ったところでそれは夢なんですからー」 リアトリスも同意する。アークは何ともいえず苦笑いをしていた。 「というわけで今日は一日部屋でのんびり療養したいと思います」 「ってお前、夢でそんなに重傷!?」 「えぇ、精神的ダメージを覆いに食らったので、慰謝料を請求したいと思います」 「待て待て待て」 そして最後は何時もの会話をするのであった。 [*前] | [次#] TOP |