零の旋律 | ナノ

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「あ、せんちょー。酒なくなりますよー」
「というか、船長に飲ませないために俺たちで全部飲んじまおうぜ」
「お、それいいアイデア」
「てめぇらまて!」

 船長を巻き込んで笑いが湧きあがる。
 船長の気さくで誰に対しても大雑把であり且つ親身である人柄が人を引寄せる魅力を放っている。
 海賊――犯罪者とは思えない程だ。ラディカルはそんな船長にある人物を重ねる。

「おお、ラディー。此処は素敵だろう?」
「とっても。言葉の現せないくらい、いい場所っすね」

 ラディカルは正直に今の心境を伝える。

「でも――なんで宴会? 俺、不法侵入者であまつさえ、船長を殺そうとしたんすけど」
「はぁ? 俺はそんな細かい事を気にしない性格なんだよ。おおらかなんだ感謝しろ」
「それは大らかっていわないっすよ」
「はっはっは。あんたが極悪人に見えなかったから、なら物珍しい客人として宴会をしようと思い立っただけだ。もし刃を向けてくるなら相手をするだけだろ?」
「ほんと、度胸があるってかー懐が深いってか、馬鹿なんじゃん?」
「よく言われる」
「やっぱし? でもせめて馬鹿は否定したら?」
「細かい事を俺は気にしない」

 ラディカルのナイフは取り上げられてすらいない。普段通りの位置に、二刀ある。けど――ラディカルは目の前に船長がいても、刃を握ることはしなかった。する――予定もなくなった。

「本当に、楽しすぎるよ」
「なら、お前も海賊になったらどうだ? 船長の座はやれねぇけどな」

 一瞬、それもいいかも――という誘惑にかられる。甘い蜜が目の前にぶら下がっている。
 手を伸ばせば届く位置にある。こんな海賊に出会う事は恐らくもう二度とない。最初で最後の機会。ラディカルは眼帯を右手で押さえる。

「いや、いいや。素敵な空間過ぎて――俺は此処から離れられなくなりそうだ。その前に、俺はさようならするよ。それに――俺の目的は船長になることだ、船長になれないなら長いは無用だろ」

 誘惑を振り切る。このまま、海賊になってしまいたい思いを必死に抑える。そして、それを悟られないように、出来るだけ抑揚を抑え淡々と喋る。

「そっかぁ、残念だ。しかし、俺はいつでも歓迎してやるから気が向いたらこい。小舟を一隻やるから、それで街に戻れや」
「悪いね、助かる」
「礼はいらねぇ。てめぇがいつか俺の所の海賊になったときに働きで返して貰うからな」
「だから、ならねぇっての」

 軽口を叩きながら、笑いあってラディカルは外へ出る扉に手をかける。

「ラディーまたなー」

 少年が手を振る。ラディカルには見えないが、手を振ってくれている、そんな気がして振り返らずに、手を振る。名残惜しそうに、ドアノブをゆっくりと回して外に出る。
潮風と、夜の肌寒さがラディカルの心に侘しさをもたらす。


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