零の旋律 | ナノ

海賊一時


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「あははは、それ面白い!」
「だろう? そんなことがあったんだよ」
「まさか、そんな出会いがあるなんて俺も一目でいいからあってみたいよ」
「やめとけ、やめとけ。碌なことにならねぇよ」
「かははは、そりゃそうだ」

 賑やかな喧騒。波の揺れが心地よい。宴会が現在催されていた。和気あいあいとした空気。
 その中心に赤毛の少年――ラディカルがいた。片時も外すことがない眼帯をしながら、ラディカルは満面の笑みで、微笑んでいた。この空間は非常に居心地が良い、楽しすぎる空間。
 ラディカルはビールを一気飲みする。酔いが少しでも早く回ればいい。そうすれば、余計な事を考えなくて済む。

「全く、どんな不法侵入者かと思ったら、こんな楽しい奴だったとは思わなかったよ」

 外見で判断するならば、ラディカルと同い年程度の少年が、気さくに話しかける。

「かはは、俺もこんなアットホームな海賊船だとは思わなかったよ」

 何時ものように、ラディカルは海賊の船長になる目的を叶える為に、海賊船に侵入した。
 そこまでは良かった。しかし、そこからは普段の海賊船と異なっていた。
 海賊の船長になるために、船長を殺す、とラディカルが告げた途端、周囲が爆笑に包まれ――案の定、殺すと言われた船長まで笑いだす始末だ。
 そして、その結果――宴会が開かれていた。船内の船員一同が食事をするだろう場所の、机を全部端によけ、床に座り船員たちは酒を飲んだり、食べ物を食べたりと賑わっている。
 ラディカルは何が起きたかわからず――今もよくわかっていない状況だが、とりあえず宴会を楽しんでいた。今まで経験した不思議だったり変な出来事を話すと、その新鮮さと面白さで、船員たちとは一気に打ち解けた。すでに宴会が始ってから二時間が経過している。

「かはは、すまんすまん」
「ラディーは何時もそうやって海賊船を襲っているの?」
「勿論」
「でも、なんで船長なの?」

 率直な疑問。

「そりゃあ当然、船長の響きがいいからに決まっているっしょ」
「えー」
「かはは。やっぱりなるなら一番上が俺の希望なんすよ」
「だったら、仲間を集めて海賊になればいいのに」

 疑問。極普通の疑問。

「……そういったやり方じゃないのを俺は希望しているんだ」

 僅かな間。曇った表情。しかし、すぐにラディカルは返答し、笑みを戻す。
 海賊の船長になりたいが為に、既存の海賊船の船長を殺すことで目的を達成しようとする違和感にラディカル自身気が付いてないわけではない。
 同じ志を持った同士を集めた方が、よっぽど効率的だということもラディカルは分かっている。
 例え――海賊がならず者であったとしても。国から追われる立場だったとしても。
 それでも海賊の船長を殺すことに、拘る理由が――確かにラディカルにはあった。それが下らない理由だとしても、大層な理由だとしても、ラディカルにとっては同じこと。

「ふーん、変な奴。笑い方の方がもっと変だけど」
「えぇ!? 俺ってそれより笑い方の方が変なの!?」
「あたり前じゃん。かははって何。キャラづくり?」
「うわー容赦ねぇーひでぇー」

 ラディカルは額に手を当てる。居心地がいい。長いしたくなる程、居心地がいい変な空間。
 扉が開く音がする。年季が入っているからか、立てつけが少し悪い。
 体格のいい三十代前半の男が入ってくる。荒くれ者を束ねる海賊船の船長だ。


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