零の旋律 | ナノ

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「だけど何もしないよりはましだ」
「なら普通の医者を呼べ、医者を」
「レインドフ家に好き好んでやってくるやつなんかお前しかいないわ」
「というか、あれだ」
「なんだ?」
「喋る元気があるなら、態々俺が治癒しなくてもいいじゃねぇかよ」

 めんどくせぇ、そう言って帽子の上から頭をかく。

「確かに同感ですー」

 リアトリスは未だ扉の向こう側だ。

「だよなぁ……まぁいいや。金銭を頂く為にも仕事はするか」
「……お前には親切心というものは存在しないのか」
「存在するわけねぇだろう馬鹿」
「俺は今日一体一日に何回馬鹿と言われるんだ」
「馬鹿は馬鹿だからしかたねぇだろうが」

 杖をリアトリスに預ける。ハイリは普段杖を持ち歩いているが、治癒術を行う時に必要とすることは滅多になかった。主に殴打用に使われている。しかし魔石が装着されていることから、本来は術用の武器であることは明らか。度々アークに使用方法が違うと言われる程度には、術用として使わない。

「おい、リア。邪魔だから出ていけ」
「云われなくても出て行きますよーではではごゆっくり」
「ゆっくりしねぇよ。風邪移されたらたまらねぇ。こいつの風邪ってなんか毒でも含まれてそうだし」
「ですよねー」

 リアトリスはゆったりと扉を閉める。その後パタパタと足音がする。カトレアの元へ向かって走っているのだろう。
 カトレアは現在庭で花に水やりをしている。ヒースリアは昼食の準備だ。アークの為に病人食を作るという殊勝な心は持ち合わせていない。
 ハイリが適当に病状を見た後、アークの分の食事をハイリが食べ、レインドフ家を後にした。
 その手にはアークからぼったくった金銭が入った袋を大事そうに握って――

 次の日。前日の風邪が嘘のようにアークは元気になっていた。

「もう少し病人でいて下さったらおもし……良かったのに」
「面白いって今云おうとしたよな!?」
「空耳です。自分で都合のいいように台詞を弄らないで下さい」
「どう考えても俺に都合よくないよな!?」
「突っ込みをするならもう少しキレのあるのをお願いします」
「……」

 もういいやとアークは無言になる。

「では、朝食お願いしますね」

 さりげなく仕事も押し付けられる当主だった。


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