零の旋律 | ナノ

王子と策士(続:始末屋他国)


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 王都リヴェルア。
 第二王位継承者シェーリオルが王宮へ戻ると、敬礼する警備の人たちの間を早歩きで進み、自室へ戻る。
 片道三日の船出は疲れると、赤ワインを一杯飲んで一休みをしようと思ってのことだ。
 扉を開けるとしかし先客がいた。しかも以前、術で保存し後で食べようと思って作っておいた自作のクッキーが勝手に食べられている。勝手知ったる振舞いに怒る気にもなれず、軽くため息をつく。

「カサネ。お前は人様を顎でこき使っておいて、悠々とティータイムかよ」
「あぁ、シオルお帰りなさい。どうでした? と聞くまでもないでしょうが」
「お前のお望み通りの展開に進んだぞ」
「でしょうね」
「そうなるようにお前が策を練ったんだから当然だろう。全く――貴族に密かに通じてローダンセを殺したいのなら、レインドフ家を雇えばいいなんて余計な入れ知恵をして動かしたんだろ」
「あははっ、レインドフ家の腕前と功績をつらつらと重ねたら一気に飛び付きましたからね」

 カサネは笑う冷淡に。カサネ・アザレアは今回、密かにアーク・レインドフを雇った貴族と連絡を取り合っていた。貴族には誰には誰にも口外しないように、口止めをしておいた。最も、その貴族が死んだ今情報が漏れる心配はない。

「全く、しかもお前はその貴族が――死ぬことも計算に入れていただろうが」
「アルベルズ王国には、幻影と名高いカルミアがいましたからね。レインドフに依頼破棄をさせると読んでいましたよ。そして――レインドフに依頼をした上で、ローダンセがピンチになったとき、自ら止めをさせば王宮から功績が認められるだろうと煽ったのも私ですが」

 アーク・レインドフがローダンセを追い詰めた時、貴族が出しゃばってきた訳はそこにあった。
 他国の人間を雇ってローダンセを殺したよりも、貴族が自ら動き殺した方が、王宮から功績を讃えられる。上手く取り繕えば、貴族としての格もあがり一石二鳥だとカサネは言葉巧みに誘導した。最も実際に会話はしていない。

「ローダンセがピンチになったら、市民も動くでしょうし、そうなればカルミアが動く。後はなるようにしかなりませんよ、そこに貴方が介入すればさらに私の予定通りに進みますからね。さしずめシオルは案内役ですよ。私の予定外の方向に進むようなら修正して導いてくれる」
「ほんっとにお前は俺を顎でこき使いやがって。全部お前の策通りになったんだろ」

 掌を前に出し、寄こせと合図するとカサネは掌にクッキーを乗せる。

「それにしても――シオルって料理上手だよな」
「教えてやろうか?」
「遠慮しとく。必要限出来れば別にいいし」

 シェーリオルのクッキーはとろけるような味わいがとても美味しく、カサネはオレンジジュースを飲みながら一人で食べ続けていた。カサネの夕食でもあった。規則正しい食事を取っていると思われがちなカサネだが、案外偏食な日々を送っている。


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