零の旋律 | ナノ

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 シェーリオルがいなくなって暫くしてから、ローダンセがアーク・レインドフの元へ訪ねてきた。
 恐らくローダンセはシェーリオルがアークたちと会話していた事は知らない。知られないようにシェーリオルが訪ねてきたからだ。

「助かった」

 一言。それだけで充分だった。

「依頼は完了と受け取って構わないか?」
「あぁ有難う」

 ローダンセは辺りをきょろきょろと見回す。

「……どうした?」
「シェーリオル王子は?」
「帰った」
「では、カルミアは?」
「その辺で酒でも配っているんだろ」
「かもな。じゃあ俺はこの辺で」
「あぁ」

 簡単に言葉を交わし、ローダンセはその場を後にする。
 依頼を完了したアークはすぐさまその場を後にする。後ろをラディカルがついてきた。

「何処へいくんだ!?」
「カルミアんとこだ」
「へ? だってさっき……」
「いいんだよ」

 必要以上のことをアークは教えなかった。リアトリスは意味がわかっているのだろう何も言わない。眠いのか欠伸をしている。何処までも周囲の雰囲気を崩す。
 広場から離れ休業中の酒場を訪ねる。
 マスターはいない。店内にいるのはカルミア一人だった。

「来ることだと思っていたわよ」

 待ち合わせはしていない。ただ、どちらも感じ取っていただけ。

「依頼が終わったからな、依頼料を回収に」
「本当に主ってあくどいですよねー慈善事業率脅威の……」
「お前は少し黙っとけ」
「全く、主は器も小さいですー」

 そう言ってからリアトリスは口を紡ぐ。

「わかっているわよ、いくら?」
「――――だ」

 アークが金額を告げると、カルミアは扉を開け、中に入って行く。暫くしてから戻ってくるとその手には袋が握られていた。
 袋をアークに渡す、アークが中身を確認すると満足したように懐にしまった。

「どうも。で、お前はリヴェルアに戻るのか?」
「そうね……リヴェルアか帝国にでもいこうかと思っているわ」

 ジギタリス同様、カルミアはこの地に残るつもりがなかった。実力の一片を披露したからだ。
 だから別の土地を求め旅する。アークには最初から漠然とわかっていた。
 けれど、カルミアが誰にも告げない事にしているのなら、自分が告げる必要はないと判断し、ローダンセに教える事はしなかった。

「ふーん、また酒場でもやるのか?」
「そうね、それがいいかしら」
「戻るつもりはないんですかー」
リアトリスが口を挟む。ラディカルは成り行きがよく理解出来ず無言を決め込んでいる。
「戻るつもりはないわ。……まぁ気になることもあるんだけど」
「気になること?」
「秘密よ」

 カルミアはリアトリスとラディカルにオレンジジュースを提供する。アークには何もない。一瞬俺も寄こせという表情をするが、それを見事なまでにスルーする。

「ぷは、美味しかったですー」

 リアトリスは一気飲みをし、その勢いのままグラスをテーブルに置く。ラディカルは勢いがいいなぁと思いながらのんびり飲む。

「なら良かったわ。それじゃあ私もそろそろおさらばするから此処から立ち去って頂戴」
「わかりましたーでは主行きましょうか」
「あぁ、じゃあな」
「ってちょ、待ってよ!」

 ラディカルはオレンジジュースを慌てて飲み干し、グラスをカルミアに渡してから立ち去ろうとしているアークとリアトリスを追いかける。

「にぎやかねぇ……」

 口元に手を当てながらカルミアは笑う。
 そのまま旅立つ準備を始めた。アルベルズ王国で出会った誰にも告げる事をせずに。


+++
 アーク・レインドフとリアトリス、ラディカルはリヴェルア王国へ戻るため、リヴェルア王国か運営している船に乗る。
 港で、ラディカルはどうするのかとリアトリスが尋ねると、もう用がないからリヴェルア王国へ戻るとのこと。アークは道中の暇つぶしも考えラディカルも一緒に行動することにした。
 先ほどの依頼料の一部から船舶代を支払う。勿論ラディカルの分も纏めて。ラディカルは自腹で払うものだと思っていた為、予想外の事に目を丸くしながらお礼をいった。その様子をおかしそうにリアトリスはみている。

「主に集ればいいのにー」

 そんなことを言いながら。つくづくレインドフ家で雇っている人たちは個性的で使用人らしくないと思うラディカルだった。使用人という言葉に違和感すら覚える。


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