零の旋律 | ナノ

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「それに、だ。狙って来るのならいつでもどうぞ――相手になってやるさ」

 顔を僅かにずらし、視線を市民の方へ向ける。不敵で、大胆な表情。

「なら――俺が狙ってもいいか?」

 アークが肩膝を地面につけ、何時でも立ちあがれるように体制を整えている。その瞳は爛々と輝く。

「……そっか、アーク・レインドフって仕事中毒で戦闘狂だから気をつけろってカサネが云っていたっけか」
「あいつ、俺が此処に来ているのを知っていたのかよ」
「あぁ。というかアーク・レインドフがアルベルズ王国の貴族に雇われるのを知っていたから、カサネは俺を此処に寄こした訳だし」
「何処から情報が漏れたんだか」
「そして、アーク・レインドフと殺る気はないよ。なんで異国の地で始末屋と争う必要があるのさ。御免だね」

 シェーリオルは肩をすくめる。
 向かって来るなら相手をするだけだが、一般市民や、軍人とはアークはレベルが違う。相手にするのは骨が折れる。無傷では済まないだろうし、勝てる保証は何処にもない。

「残念」

 手の平に載せていたナイフをクルリと回転させ、遊ぶ。銀色の装飾に赤い魔石がついた綺麗なナイフだった。何時掌に載せたのか、シェーリオルは目を細めるが、記憶にない。手品のように気がついたらナイフがアークの掌にあった。

「いくらレインドフったって、第二王位継承者を相手にしちゃダメでしょ。お兄さんよ」

 ラディカルは冷や冷やしながら口を挟む。一触即発の雰囲気を一瞬だけ醸し出した、二人の威圧に押されてた。今はそんな雰囲気はないが、いつ再発しないとも限らない。
 どうしてこうも物騒な人物ばかりが知り合いに増えていくのか、ラディカルは頭を悩ませたくなる。

「やっぱ?」
「わかっているなら武器構えるなよ!」
「残念」
「いや、お願いだから本当に残念そうな顔はしないでください」

 後半が敬語になる程、悩んでいた。

「じゃあ、俺は用事が終わったし後のことは何とかなるでしょう。じゃあね」

 上着が動くたびにひらひらと揺れる。しっかり着ているのではなく、着崩し、腕で留めている上着は容易に風の流れに沿って動く。
 すたすたとシェーリオルは歩いていき、暫くしないうちに姿が見えなくなった。

「あの薔薇魔導師様本当に何をしにきたんだよ」
「薔薇魔導師様?」
「薔薇が似合いそうな王子様×魔導師。略して薔薇魔導師様」
「眼帯君は本当に変な仇名をつけるのが得意だよな」

 本人の前で言った時の反応が気になりながらアークは苦笑いをする。

「しっかし、ヒース並に綺麗な方でしたねー。まぁヒースは美人って感じで、王子様は美形って感じでしたけど」
「リアトリス、そういやリーシェ王子がいる時は一言もしゃべらなかったが何故だ?」

 普段はお喋りで次から次へと言葉が乱発されるリアトリスにしては珍しく、シェーリオルがいる最中は一言も口を開かなかった。

「私だって空気読めるんですよ」
「えぇ読めるの!?」

 大仰に驚いたのはラディカルだ。
 ぎろり、と鋭い視線でリアトリスはラディカルを睨む。

「しつれーですね。私は空気を読めますよ。読んだ上で読まない事が多いだけです!」
「読めよ!」
「ただ。今回だけは読んであげて差し上げたのですよ。余計な事になるとめんどーですからね」
「わけわからねぇよ」

 ラディカルは実力者の知り合いが増えるとともに、変人の知り合いも増え頭痛までやってくる気分になった。
 レインドフ家は執事もメイドも変人だ、心の中で悪態をつくと同時に、どうしてそんな執事とメイドを雇ったアークの神経を疑った。


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