零の旋律 | ナノ

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「結構早くから気がついて、放置していただろう」
「眼帯君が、いつ気がつくか気になって」
「俺かよ!」

 ラディカルはどんだけ弱く見られているのだ、と叫びそうになったのをギリギリの所で押さえる。

「初めまして、アーク・レインドフ」

 端正な顔立ちはヒースリア同様整っているが、その笑みに黒さはない。

「此方こそ、初めまして。リヴェルア王国第二王位継承者シェーリオル・エリト・デルフェニ」
「リーシェでいい。シェーリオルって長いから」
「ではリーシェ。何故貴方がこの場所に? しかも護衛をつけずに一人で」

 当然の疑問だった。ラディカルも首を縦に振る。

「護衛とかかったるいのは嫌いなもので。この場所に来たのは簡単さ、俺を顎で使う悪逆非道な策士様に頼まれたからさ」
「……策士カサネ・アザレアか」
「カサネ・アザレア?」

 話の腰を折るようにラディカルが口を挟む。

「カサネ・アザレア知らないのか?」

 シェーリオルが興味深そうにラディカルをみる。

「あ……えぇ」
「策士カサネ・アザレア。俺の弟――エレテリカの腹心だよ。最もカサネはカサネで好き勝手にやっているけど。まぁ、関わらないで済むならその方がいいって性格しているよ」
「まぁそれは同意」

 シェーリオルの言葉にアークが同意する。
 そして、アークはレインドフの名を持つ自分の元へシェーリオルが訪ねてきた訳を理解した。
 カサネ・アザレアが絡んでいたとなれば、納得出来たからだ。

「カサネだけだよ。第二王子を異国の地にまでお使いを頼むんだからな」
「そりゃあ、あの策士様だけでしょうねぇ。……それにしても噂に違わず王子様とは思えないほどの実力者のようで」

 聴き方を変えれば厭味に聞こえる言葉に、シェーリオルは気分を害した様子はない。アークとしても厭味で言ったわけではない。

「流石、高名な魔導師として有名な王子様だこと」

 リヴェルア王国第二王位継承者シェーリオル。その名前は広く知れ渡っている。王族だから、ということは勿論、他の要因もあった。
 シェーリオル・エリト・デルフェニは類まれなる魔導の才を持ち、数多の研究成果を上げてきたとして魔導師の間では知らない者がいない程だ。

「不要な護衛はいらないさ」

 シェーリオル程の実力があれば、並大抵の相手を返り討ちにすることは容易だ。そして普段から護衛をつけるのを好まないシェーリオルは一人で身軽に行動をする。

「でも、気をつけたらどうです? リヴェルア王国の王子様が介入したってことで、ちらほら快く思わない輩の視線が」

 殺気の類にアークは敏感だ。アルベルズ王国市民の、感情を敏感に感じ取っていた。

「そりゃ、いい気分はしないだろ、都合のいい時にだけやってきたんだから、しかもまともに相手にするわけにはいかない王子様ときた。いい感情を持ってって方が無理だろうが」

 シェーリオル自身も、市民の感情を感じ取っていた。しかし気にした素振りはなくあくまでも飄々としている。器が広いのか、気にしない性格なのか。


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