零の旋律 | ナノ

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 広場を後にしたジギタリスとカイラは人気の無い場所を歩いていた。
 最も何処の場所も大半は人気がない。皆広場に集結しているからだ。
 閑散とした街並みを歩いていく。その足取りは何処でもマイペースだ。

「良かったのか?」

 カイラが声をかける。カイラにとってこの国に未練はない。この国から脱走したところで何も思わない。
 この国に縛られ続けてきたカイラは解放された気分にさえさせられる。
 だが、ジギタリスはどうだ、とカイラは思う。ジギタリスは自ら望んでこの地を訪れ、そして軍人となった。当時最強と謳われていた軍人を簡単に捩じ伏せ一気にこの国の軍人として最強の地位を手に入れた。

「別に構わないさ」

 ジギタリスはあくまで淡々としている。そこに未練や後悔は一切感じられなかった。

「ただ、私はリヴェルアにいたくなかっただけなのかもしれないな……あの頃は力を求めていたわけだ」

 ある男に再び挑むために力を求めて旅をした。しかしジギタリスにその心境はもうない。
 何がジギタリスを変えたのか、問われればジギタリスは瞬時した後こう答えるだろう――カイラと出会ったからと。
 カイラにとってジギタリスの存在が大きいのと同様に、ジギタリスにとってもカイラの存在は大きかった。最もカイラとは違い、ジギタリスは口にすることはない。心の奥底にしまいこんでいる。

「まぁ、俺はジギタリスが行くってところなら何処でもいくけど」
「なら、帝国にでもいくか。まだリヴェルアに戻りたい気分にはなれないのでな」

 アルベルズ王国にいることが出来ないのならば、とジギタリスは自嘲気味に笑う。
 最もジギタリスの性格と実力であれば、国が変った後でも平気でいるのだろうが――魔族だと知られているカイラに対する配慮もあるのだろう。ジギタリスと行動を共にすることになっても――周りがカイラを魔族だと認知していても、カイラはサングラスを外すことはしない。

「ついてくるか?」

 あたり前の問いを訪ねる。

「勿論だ」

 あたり前の返答。


+++
 ジギタリス、カイラ双方の実力者を失った軍が彼らに勝てるわけもなく市民たちの勝利で終息した。
 広場の軍人を制圧すると市民は王宮へ向かう。王宮は広場より時間がかかることはなかった。
 貴族や王族の大半はすでにいなかった――金品の類を持って、逃走したのだろう。
 その夜広場は市民の宴の場となっていた。

「終息ってつくものなのか?」

 ラディカルがカレーを食べながら隣にいるアーク・レインドフに問う。アークの隣にはリアトリスがいる。

「さぁな、これが是の結末ってわけじゃないだろう」

 アークはひとしきり様子を眺める。

「さて、あの……あぁ、いいか」
「?」

 ラディカルが首を傾げる。アークが何を言っているのか理解出来なかった。

「いいや、気になったから途中から加わった第二王位継承者に話しを聞こうと思ったんだが、そうする前に此方に来てくれたみたいだから」
「は?」
「つーまり、眼帯君の後ろ付近にいるってことですよ!」

 リアトリスがにこにこしながら告げる。恐る恐るラディカルが振り返ると、本当にシェーリオルがいた。
 アークに話しかけらる程の距離ではないが。それでもかなり近い。
 ――俺、やっぱ弱いのかな
 始末屋レインドフならまだしも、王子であるシェーリオルが近くまで来ていて気がつかなかった事にラディカルは自信を喪失しそうになる。


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