零の旋律 | ナノ

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「私とカイラは戦線を離脱させて頂こう」
「ふーん、まぁいいんじゃねぇの。ってかそもそもお前は何もしていないだろうが」
「まぁいいといいつつ、何処か残念そうだな、レインドフよ」
「そりゃ、折角のジギタリスと戦える機会がみすみす棒に振ることになるなんて、残念以外ないだろうが」

 仕事中毒が目立つアークだが、戦闘狂の一面も持っている。
 だからこそ、ジギタリスと戦えるのなら“本気”で戦おうと思っていた。服の中に仕込んである武器を使って。しかしジギタリスが戦線を離脱するのなら、戦う機会は失われる。
 今此処で無理矢理戦う事をしないのは、現在が依頼遂行中だからだ。一人で動いているのならば話しは別だっただろう。

「ほう。まぁ私としてもレインドフと何れ刃は交えてみたいとは思うが、此処でやったところでお互いに満足は出来ないだろう。ならばまたの機会を待つのみさ」

 終始淡々と焦る表情もなくジギタリスは会話する。
 アークはその辺に放り投げた警棒を再び拾う。ジギタリスを相手にしないのならば、その程度で充分すぎると判断しているからだ。
 ジギタリスとカイラがこの場から去ろうとしているのを目の当たりにした軍人たちに動揺が走る。将校は怒鳴るが、ジギタリスは軽くあしらうだけだ。耳を貸さない。
 仮に実力行使に出てこられたところで最強の軍人であるジギタリスに軍人は誰も勝てない。
 向かって来るだけ無駄だ。
 だが、ジギタリスの足が止まる。

「何だか凄い事になっているなぁ」

 リアトリスとは違う場違いな声。静かだが明瞭に聞こえる声。
 軍人がローダンセに向かって発砲する。

「ちっ」

 ローダンセは発砲音に気がついて交わそうとしたが、時すでに遅し。目の前に迫った弾丸。しかし。見えない壁に弾かれたようにローダンセまで銃弾は届かない。

「はい?」
「大丈夫?」

 ローダンセの隣に、いつの間にかいた青年が声をかける。

「……貴族? いや、おまっいや、貴方は」

 その姿にローダンセは動揺する。

「はぁ? なんであんな奴がいるんだよ」

 アークもその青年に見覚えがあった。対面した事は一度もない相手だが。その顔は知っている。

「全く、次から次へと湧いて出てくるものだな」

 ジギタリスは呆れ気味だ。

「ジギタリス、あれは誰か知っているのか?」
「カイラは知らないか。あれは――リヴェルア王国第二王位継承者シェーリオルだ」
「……何でいるんだ?」

 当然の疑問に答える術をジギタリスは持っていない。少しだけ成り行きを見るか、とジギタリスの視線はシェーリオルへ移動する。
 戦線離脱を宣言した以上、依頼遂行中であるレインドフは向かってこないと判断して構えてはいない。
 リヴェルア王国第二王位継承者の登場にジギタリスに怒鳴っていた将軍も、呆気にとられている。
 周りに護衛がいる気配はない。護衛も付けずに、第二王位継承者が簡単に来られる土地ではないはずなのに、シェーリオルは飄々としている。正装が苦手なのか、服を着崩しているが、その高貴さは服を着崩した程度では失われない。艶やかな髪は金糸のように美しい。整った顔立ちは、異性を引き付ける魅力を放っている。髪留めとして使用されている真っ赤な魔石が軽く光ったと思うと、銃を構えていた軍人の銃が粉々に壊れる。


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