零の旋律 | ナノ

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 アーク達には用がないと言わんばかりに、視線を合わせることもなくホクシアは背を向けて歩き出す。
 たいして顔を合わせたわけでも刃を交えたわけでもなかったが、ホクシアはアーク達が攻撃してこないという確証があった。
 それは――ホクシアから見ていも彼らが異質だったからかもしれない。

「あ、石ころ主―!」

 ホクシアの姿が完全に見えなくなった頃合いに、場の雰囲気を一気にぶち壊す場違いな声が響く。
 後方から手を振りながらリアトリスが現れた。
 市民も軍人も対応に困りそのままリアトリスに道を開ける形となってしまう。

「石ころってなんでだよ!」
「石ころを武器にしているから、というのは見せかけで実際に主は道端に転がっている石ころと同等という意味です!」
「普通に武器にしているからだけにしろ!」

 リアトリスは臆することなく争いの場に足を運び、場違いな笑顔で会話をする。

「お兄さん、誰この空気読めない少女」

 ラディカルが思わずアークに問うほどだ。

「リアトリス。俺んとこでメイドしている一人」

 淡々と答える。微妙な沈黙がラディカルに流れる。

「初めましてー、リアトリスです。人でなしの所でメイドやっています!」
「あ、初めまして。ラディカルっていいます」

 右手を差し伸ばすリアトリスは何処までもこの場の雰囲気にそぐわなかった。意図的なのか、素なのか判断はラディカルにつかない。
 例えリアトリスが場の雰囲気を壊したといっても、全体の波紋は収まらない。
 アークが倒していない軍人は市民と激突する。そのうち自体を重く見た貴族や王族が、自らの護衛部隊や、さらなる追加で軍人を派遣してくる始末となる。
 ジギタリスは相変わらずその場から動こうとしないが、途中で服装を見ただけで将校だと判断出来る軍人がジギタリスの元まで歩み寄る。ジギタリスは眉を顰め、二言三言交わす。

「……」
「ねぇお兄さん、さっきから何であの髪の長いお姉さんを気にしているんだ?」

 所々アークはジギタリスの動向を気にしている素振りがあった。それに気がついたラディカルは問う。

「ん? あぁ。あいつが動き出すと面倒だなぁと思って」
「面倒? そりゃ、偉いから強いでしょうけど、お兄さんなら敵なしなんじゃないのか?」

 苦戦しているところを今まで一度たりともみた事がない。

「わかりやすく説明してやろうか?」
「お願いします」
「ヒースリアと同類だぞ、ジギタリスは」
「……え?」
「元だけどな」
「ってか俺、あの毒しか捲かない執事の職業しらねぇよ! あれは執事じゃないのか!」

 執事を指して言っているわけではないことにラディカルは気が付いていた。だからといって、ヒースリアが執事の前に何をしていたか等知るよしもないこと。

「ん、あぁそうか。眼帯君は知らなかったか」
「じゃあ、私が説明して上げるですよー。主と同種ってことですよ」

 リアトリスが今度は比較的わかりやすく説明する。ラディカルは成程、と手をポンと叩く。

「ってまてや! それって大分危険じゃないっすかー!」

 そして予想通りの反応を返す。アークは口元を緩ませる。

「相変わらず予想通りの反応で面白いな眼帯君は」
「面白いってそんなことじゃないでしょうがっ」
「そうか?」
「危機感零のお兄さん……せめて危機管理は出来るようにしといてくれや」

 ラディカルは何を言っても無駄だと悟りながらも、それでも何か言わないと気が済まなかった。
 しかし途中で会話をこれ以上するだけ被害が拡大するだけだ、とラディカルは大ぶりのナイフを握り、殺さない程度に軍人を痛めつけていく。この国の内情をラディカルは殆ど知らない。それでも――この国は腐敗していると実感させられた。
 だからこそ、市民の味方をラディカルは誰に頼まれるわけでもなく、率先して行っている。


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