] 「この国には俺以外魔族はいないはずだ」 カイラは躊躇することなく答える。 「なっ――! どういう」 「俺が、俺が殺してくれように頼んだ」 「どういうこと?」 ホクシアはカイラの腹部を掴む。胸倉をつかみたいホクシアだったが身長差で叶わない。 「そのままの意味だ。一生牢獄で暮らし、痛み続けるくらいならいっそ安らかに死んだ方が何も――感じなくていいと俺が判断したからだ、俺の独断で独善で」 ジギタリスに他の魔族を救ってくれと頼んだところで、ジギタリスが拒否する承諾する以前に国が認めない。自分一人を牢獄から出すだけで貴族たちはあからさまに嫌悪感を示した。 しかし、それをねじ伏せるだけの文句を言わせないだけの力を自分が身につける事が出来、そしてジギタリスの驚異的な力を失いたくなかったから可能だっただけ、他の仲間がそう出来るとはカイラは思えなかった。 攻撃することは許されない喋る事も許されない訓練を幼少期から受けさせられた。それは単純に実験体だった。 武器の性能を試す目的や、兵士の訓練に魔族が使われた。兵士たちは実弾や剣を所有して容赦なく――日ごろの鬱憤を晴らすごとく攻撃してくる。 しかし魔族に武器は与えられないし、喋ることも攻撃行動に出ることも許されていなかった。 痛みをいくら与えられても声を上げる事は出来なかった。仮に声を上げればそれ相応の罰が与えられる。 だからこそ――苦肉の策としてカイラは回避行動をとる道を選んだ。ただひたすら攻撃を食らわないように避け続ける。それは兵士の反感買う事も間々あった。 けれどその道を選んだからこそジギタリスの目にとまり、牢獄から出して貰う事が出来た。 だからこそ――これ以上痛みを受けてほしくなかった。仲間がこれ以上苦しむ所を見たくない、その思いでカイラはジギタリスにお願いした。魔族を苦しまないように殺してほしいと。 ジギタリスはその願いを承諾した。一発一発確実に心臓を打ち抜き、痛みも苦しみも与えないままに魔族を殺した。魔族を殺すように頼んだ自分を、魔族が恨んでも恨まれても構わなかった。けれど、魔族が殺される時、あの時魔族の瞳に宿ったのはやっと終れる安らぎだった。今でもあの時の瞳が忘れられない。一生忘れることなく、脳内に記憶として刻み続けられるだろう。 「そういうこと」 ホクシアのその時の現状はわからない。カイラがどのような心境だったのかも。 だからこそ仲間の事を思い殺すのを願ったカイラに対して何も言えない。自分が同じ状況だった時、何をするか自分もわからない以上何も言えなかった。 ただそうした状況に魔族を追い込んだ人族に対して憎しみが溢れるだけ。 「貴方がその道を選んだのなら私は別に何も云わない。けど――邪魔をするなら殺す」 明確に伝える。同族だからといって全てが仲間にならない事をホクシアは知っている。 同族でも人族が争い会うように一つに一致団結しないように。 この現状ですら人族は軍人と市民に分かれて争っていた。一致団結はしていない、人族同士の抗争があるように魔族も全てが一致団結しているわけではない。人族の味方をする魔族が中にはいないわけではない。 ごく少数だったとしても何であれ。 [*前] | [次#] TOP |