零の旋律 | ナノ

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「たく、人族はうじゃうじゃと人数だけはいるわよね――!」

 刀を上に構え、勢いよく振りおろそうとする――その時、刀がホクシアの手から離れ――誰かの手によって弾かれ、刀が地面に突き刺さる。

「何っ!?」

 右手首を左手で軽く押さえながら、ホクシアは顔を顰める。

「そんなもん振りまわすもんじゃなわよ」

 人族を守り、そしてホクシアの刀を余裕で蹴飛ばしたのは――カルミアだった。撫子色の髪は一つに纏め結ってある。

「次から次へと面倒なのがやってくるものね」

 一目で他の者より乱入者の実力が飛びぬけていると判断し距離を取る。

「魔族の少女、君はこの場に関係ないんじゃないのかな? まだ、君の出番は早いと思うわよ」

 カルミアはおごそかに告げる。

「……どうでもいい。私は人族が嫌いなだけ、ならば殺すだけ」

 人族が魔族を忌み嫌ったように魔族は人族を忌み嫌う。
 人族に虐げられ続けたのなら人族を殺し、連鎖は続く。

「そう、まぁそれが人族の仕出かしてきたことの結末なのかもしれないけど」
「なら邪魔をするなっ――!」

 ホクシアは雷属性の魔法を放つ。カルミアに向けて、一直線に迸る閃光をカルミアは右手のひらだけで受け止める。
 雷をその身に受けて、何もなかったかのように。

「っ――、どういうこと!?」
「その程度の電撃じゃ、私には意味がないということよ」

 平然とするカルミアに、その時初めてホクシアに僅かな焦りが見え隠れする。
 絶対的優位な実力を持っていたはずなのに、それを唯一人乱入者によって覆される。

「なら、もっと強力にすればいいだけの話」
「魔法も魔導もそうだけど、威力に比例して扱うのは容易ではなくなるわ、それはつまり魔法を発動する際に必要な詠唱が長くなること、貴方はこの現状でそれが出来るのかしら?」
「……そうね、でも私を舐めないこと。舐めるんじゃないわ」

 自分の実力に自信がなければ、この地に一人で足を運ぶことはしない。
 ホクシアにはホクシアの目的がある、それを達成するまで負けるわけにも死ぬわけにも――捕えられるわけにもいかなかった。
 諦めたら、魔族は――
 カルミアが動く、がすぐに後方に下がりホクシアと間を開ける。

「障壁……」

 魔法により作りだされた不可視の結界。
 ホクシアが作り上げたわけではない、ホクシアはカルミアの攻撃に備え構えていた。
 魔族の誰かが自分を援護しにやってきたのか、一瞬ホクシアはそう考えるがすぐにそうではない事を理解する。ホクシアの後ろに立つのは軍人だったからだ。敵意も威圧感も感じない。此処で軍人が自分を助けた理由はただ一つしか思い当たらない。

「……貴方が、ひょっとして噂の」
「そうだ」

 軍人――カイラはサングラスを外す。その瞳が彩るのは金色。魔族である証。
 ホクシアが苦戦しているのを知ったカイラはジギタリスの方へ視線を移した。ジギタリスは軽く微笑みカイラの云いたい事を承諾する。
 カイラはラディカルとの勝負を投げ出し、ホクシアの元へ向かった。ラディカルも同時にカイラが何をしようとしているのか理解し、追わない。

「貴方が唯一騎士団に入った魔族だったのね」

 悠々とカルミアは笑みを崩さない。絶対的自信があるのか、それとも秘策があるのか。
 アークは淡々と軍人を片付けながら、本来なら蚊帳の中にいるのが普通の状況で、蚊帳の外にいる現状を複雑な表情で軍人を確実に昏倒させていく。石で倒されれば、倒されなくとも戦意は徐々に損失していく。舐められていると理解させられ、そして足掻くことも許されず負ける。
 圧倒的実力差の前になす術など何もない。


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