零の旋律 | ナノ

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「何をしているんだ?」
「私の目的は人族を殺すこと。だから殺しているそれだけよ」

 事も何気にホクシアは答える。

「成程。わかりやすい」
「それに、その方が――私の目的を達成しやすいというだけのこと」

 鮮やかに振るう刀さばきにアークは感心する。幼い少女が此処まで刀を扱えるとは思ってもいなかったからだ。年齢が強さを現すわけではない事をアークは知っている。しかし魔法に長けているホクシアが実は刀を巧みに扱う事が出来るとは思ってもいなかった。

「ふーん」
「今、貴方みたいなのを相手にするつもりはない、でも邪魔をするなら殺すわ」
「邪魔はしないさ」

 目的がある主一緒である以上邪魔をする必要はない。

「ま、ま、魔族だ!!」

 今さらながら、ホクシアの金眼に気がついたのか軍人が怯え叫ぶ。
 それが伝播していく――ホクシアはため息と舌うちを一回ずつする。下らないと切り捨てる。
 魔族、金眼、化け物。そういって人族は自分たちを迫害していく。

「古の盟約すら忘れ、自らの欲に走った人族が何をほざくのかしら」

 自分たちから自由を奪い、束縛し苦しめ、殺害していく人族。ホクシアは恨まずにはいられなかった。

 ローダンセは予期していない現状にどうするべきか、唇を噛みしめる。

「なぁ、アンタの事は何もしらねぇけど、この指揮はあんたがとっているんだろ? 優しい兄ちゃん。だったら何をするべきかを迷っちゃいけねぇよ。迷ったら――他の人も迷う」

 不安が伝染して、最後には反乱を失敗に終わらせる。それだけはしてはいけないと、ローダンセは立ち上がる。

「それにしてもグラサン兄さんよ。随分と――」

 ラディカルはナイフを構えたまま走り出す。カイラもそれに応じ、ナイフとナイフがぶつかり合い金属音を奏でる。
 広場はごった返す。誰が敵で誰が味方かの区別を彼らははっきりしているつもりだった。
 しかし、悲鳴を上げる彼ら――自らの望んで虐げていたわけではない彼ら、殺されていく彼ら、力なき彼ら。
 感情が揺さぶられる。
 何故、此処にいたのだろうかと――決意が揺らぐ。
 一人の揺らぎは波紋となりやがて広がりゆく。
 ホクシアは都合がいいとばかりに人族を虐殺する。近づかれれば刀を振るい、遠のけば魔法を放ち圧倒させる。攻守に置いて隙の無い動きで周囲を翻弄させる。

「ホクシアって結構やるなぁ」

 ラディカルはカイラと応戦しながらホクシアのその実力の高さに感心する。
 最もホクシアは外見こそ幼い少女の姿をしているが、その実年齢は定かではない。
 魔族の最たる特徴に人々は魔法を上げる。金の目をし魔法を扱い魔物を使役するものと。

 しかしそれだけではない、一般的にそこまで浸透していない事実ではあるが、魔族は人族より遥かに長命だった。
 人の三倍以上の寿命を持ち、その姿が成長するのもまたある一定期間を超えると緩やかなものとなる。だからこそ、ホクシアの外見が十二歳程度であったとしても、実年齢がイコールとは限らない。
 下手すればこの場にいる誰よりも年齢が高い可能性だって大いにあるのだ。

 ラディカルの振るう太刀は鋭く、確実にカイラを捕えるが、カイラはそれを上回る素早い動きで避ける。
 一向に攻撃がかする事はない。
 カイラもホクシアの言動が気にかかるのか、余裕がある時はホクシアの方を見ている。
 唯一人乱入してきた魔族の少女、この場に置いてアークやラディカル同様イレギュラーな存在。
 ホクシアが殺す人族は軍人だけにあらず、手短にいる人族から無差別に殺していた。
 だからこそ市民もホクシアを殺そうと向かうが、実力差は明らかだ。ホクシアに一身を報いることもなく、切り裂かれる。


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