零の旋律 | ナノ

V


「で、眼帯君はなんでこんな場所にいるんだ? ニーディス家の周りを不用意にうろついていたら捕まるぞ?」
「それは今にも死にそうなお兄さんたちにも言えることだけど」
「俺が捕まるようなヘマをするわけがないだろう」
「つまり、俺はするってね。んーいやちょっとね」

 曖昧に、そしてあからさまにラディカルは誤魔化す。

「話したくないって内容か?」
「別に話したくないって程の内容でもないんだけど、態々話す必要も感じないかなって。大体聞いてもお兄さんの得にはならないでしょ?」
「まぁそれはそうだ」

 その内容がどうであれ、アークの仕事に支障をきたすのならアークは始末するし、関係ないことなら放置しておく。

「お兄さんはなんで此処に?」
「ん、あぁ……討伐の仕事」

 具体的には答えない。第一ラディカルも目的を教えていない以上、それ以上教える必要もない。仮にラディカルが目的を教えていても、アークは教えなかったが。
 いくらカサネ・アザレアからの依頼だとしても、その辺の区別はつけている。
 執事やメイド、長年一緒にいてある程度の信頼を抱いている相手ならまだしも、偶々一度だけであった相手を信頼することはアークには出来ない。ましてアークたちと同種であるラディカルには。

「ふーん。まぁこっちも深くは突っ込まないよ。聞いたところで教えてはくれないだろうし」
「ご名答」
「それにしてもお兄さんたちも大変だねぇ」
「大変?」

 何が大変なのか――そう聞き返そうとした時、悲鳴が上がる。何か起きたか一目でわかる。それが非現実で一瞬目を疑ってしまうだけ。魔物の群れが海から海岸の方へ向かって来る。
 魔物が統制をとり現れることなんて滅多にない。非現実さを醸し出しているそれに反応が一瞬鈍くなる。
 しかし魔物は海から陸地へ上がろうとはしない。実際は飛行型の魔物で、空を飛んでいるのだが、羽の羽ばたき一つ一つがカマイタチと変化しそうな重量感を感じさせる。一切に攻撃を仕掛けてきたら、街は壊滅状態に陥るだろう、それほどの群れだ。

「ってうわわわっ何で魔物が!?」

 ラディカルが声を上げて反応する。その言葉にニーディス家の警備の人間がラディカルを発見したが、怪しい不審者より目の前の魔物を討伐する方が先だった。一体の魔物が他の魔物たちを制するように一歩前に出る。

「少女?」

 漆黒の魔物の上には一人の少女が悠然と立っている。全ての人を見下すような、そして侮蔑する金色の瞳。憎しみと恨みにまみれた瞳は人族へ向く。黒いドレスに身を纏い、金糸のような髪が風ととともに舞う。

「人族風情が……我ら魔族を蔑ろにするのもいい加減にしろ」

 少女の言葉は風となり伝わらない。少女が前方を指差す。それと同時に今まで待機していた魔物が一斉に動き出す。人々を食らい尽くす為に。人族を殺す為に。一瞬にしてシデアルは悲鳴が覆い尽くす。逃げまどう人々。多少力に自信があるものは戦うが、それでも魔物の大群を相手にするには、多少では力不足だ。

「とっと」

 アークはその辺にあった大ぶりのナイフで魔物を一刀両断する。
 一切の無駄なく。そして迷いなく。

「って殺戮モードに入ったお兄さん! 俺の武器取らないでよ」

 二刀あったナイフは気がついたら一刀に減っていた。

「ん、あぁ悪い。何かないかなぁと思ったら目について」

 その場にある物を武器として扱うアークの目に真っ先に着いたのが、ラディカルが所持しているナイフだった。それをラディカルが気付かないうちにかすめ取り。そして魔物を殺した。一体、二体、三体、と徐々にその数は増えて行く。


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