零の旋律 | ナノ

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「――っ」

 アークは軍人を昏倒させながら、身体を少し後ろに避けげる。絶妙なバランスで動いたその動きは何をしたかわからないだろう。けれどアークがずれたすぐ後にナイフが先刻までアークがいた場所を通り過ぎる。
 そしてそのままローダンセを殺そうとしたカイラの方へ向かう。

「――!?」

 カイラは咄嗟に後方に数歩下がり交わす。
 ナイフはそのまま回転を繰り返し、やってきた方向に戻っていく。ナイフの回転で手元を狂わされることなくしっかりと受け止める。

「眼帯君。投げるなら最初から云ってくれないと」
「云わなくてもお兄さんなら余裕で交わせるでしょう」

 カイラの攻撃を妨害したのはラディカルだった。アークの後方からその姿を現す。ナイフを後ろに回し構えている。そのままカイラの方にナイフを投げながら同時に駆けだす。
 カイラは邪魔だ、とナイフをナイフで振り払い地面にたたき落とす。
 ラディカルはローダンセの方まで追いつくと、ローダンセの袖口を引っ張り後ろに引き倒す。

「何をー!?」

 見知らぬ少年が何をしたいのか理解出来ず呆然とする。
 ラディカルはカイラとローダンセの間に入って立つ。
 二対あるうちの一つはカイラによってラディカルから二メートル先に飛ばされた。新しいナイフを右手で構える。

「何、お前。何故邪魔をする?」

 カイラの問い。

「俺、ラディカル宜しく」

 無邪気に人懐っこそうにラディカルは朗らかに見当違いの事を応える。

「何故邪魔を」
「いや別に。でもさぁこんな腐った国ならいっそ生まれ変わるのもありなんじゃねぇの?」

 騒動を感じ取ったラディカルは何事かと貴族街を出た。すると市民たちが暴動を起こしている。その中心には軍人とアークたちがいた。ラディカルの身体は咄嗟に動いていた、そして気がついたらローダンセを庇っていた。それだけ。明確な目的があるわけじゃない。加担する動機があるわけでもない。
 ただ、現状が変わるのもありだと思っただけ。

「別に親切心とかお節介心とかあるわけじゃないから、そこんとこ忘れないでな。俺はただ――現状のままよりはいいって俺が判断したからだ」

 その方が魔族にとってもいいと――。

「……お前は……」

 ローダンセは言葉が出てこない。言いたい事はあるのに言葉にならない。

「まぁ、だから俺は此処で勝手に勝手な思いで勝手な理由で手伝うだけだ」

 あくまでもそれは自分の意思で手伝うだけ。

「ぎゃあああああああああ」
「ぐはぎゃああああああ」

 悲鳴が周囲を覆う。何が起きたのか、ラディカルは呆然とするがすぐに理由がわかった。
 広場後方で軍人が殺されていた。悲鳴が上がる度に血しぶきが起こる。

「忌々しいわ」

 凛とした。けれど幼い声。

「お前、確かホクシア」

 アークがその姿に気がつく。黒と赤、そして白のドレスに身を纏った金髪金眼の少女――ホクシア。
 刀で一閃するたびに軍人は痛みのままに絶命していく。
 ジギタリスは一瞬ホクシアに視線を向けるが、すぐにカイラの方へ戻す。
 石垣から降りるつもりはないらしい。

「お前は確か、あの時の忌々しい人族」

 ぎろりとホクシアの視線がアークを射抜く。


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