零の旋律 | ナノ

最初で最期の殺し合い


 広大な敷地内に立つ、建物内部。敷き詰められた赤い絨毯を歩く。

「リアもカトレアもいないと寂しいな」
「そうですねぇ……でも、その方がいいですよ。どの道、寂しくなるのは変わらないのですから」

 始末屋の言葉に、執事は答える。

「そうだな。最後に残るは一人」

 歩みを止め、始末屋と執事は向かいあう。

「俺はアークを殺したい」
「俺もリテイブを殺したい」

 殺意と殺意が重なり合う。
 精神を統一する。まともに会話をするのは是が最後だ。
 自分が生き残るにしろ相手が生き残るにしろ、一緒に会話をすることはもう叶わなくなる。
何故ならば、自分が相手を殺害するからだ。
 双方その認識は変わらない。
 殺したいから、殺す。
 それだけだ。
 最初に出会い、死闘を繰り広げてから、再び――そして初めて、全力で殺しあう日を待ち望んでいた。
 出会ったときの怪我をしていた殺し屋はこの場にいない。
 だから、二度目で初めての、再戦であり唯一の死闘。
 始まりで、終わり。

「リアはまたね、といいましたが。私はこういいましょう“主”」

 主と呼ぶのは最後。

「――さようなら」
「あぁ。さようならだ、ヒースリア」

 ヒースリアと、主がつけた名前で呼ばれるのも是で最後。
 剣と銃を向け会う。顔には自然と笑みが浮かぶ。

 ――ずっと殺したかった。
 ――やっと殺せる。

 殺し合わずには終われない。殺し合わずに生き続けることは出来ない。

「じゃあ、殺しあおう。リテイブ・ロアハイト」
「勿論だ。俺はずっとアーク・レインドフを殺したかった」

 端正な顔は妖艶に、そして歪む。
 同時に駆け出し、躍るように獲物を向けあう。
 一切の迷いなく、躊躇なく、容赦なく。

 鮮血が視界を多い、どちらの血ともわからない血という血を浴びながらも、殺意と笑みは消えない。
 果たして幾度刃を交えたか、双方記憶がないほど――楽しい時間を過ごした。
 けれど死闘に永遠はない。
 殺意に殺意が重なりあう限り、死という終わりは訪れる。
 故に、敗者は一人で勝者もまた一人。


「終わり、だ」

 果たして最後に微笑んだのはどちらだったか。




END


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