零の旋律 | ナノ

生涯の嘘


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「兄さん。カサネはきっとどこかで幸せだよね」

 かつてカサネが自室兼仕事部屋として使っていた場所で、黒のカーテンに手を触れながらカサネは問う。

「あぁ。幸せさ。お前が生き続ければカサネは何処に至って幸せだ」

 シェーリオルは、椅子に座りながら答える。嘘を並べ立ててカサネが生きているけれどエレテリカの前から姿を消した物語を告げた。
 道化師のように、これからその嘘が露呈しないよう演じ続ける。
 滑稽でも、馬鹿らしくても、真実を知るものは、自分と始末屋しかいなくとも――演じ続ける。この命が尽きる時まで。
 それがシェーリオルの決意だった。

「その手紙は?」
「仕事の報告書。頼んでいた仕事を完遂したってさ」

 シェーリオルは報告書――ノハ・ティクスを殺害したという文章が記された紙を火の魔導で燃やす。

「……今日、エリーお兄様が戻ってくるって。父上と母上が皆で食事をしましょうって。リーシェ兄さんもくるでしょ? 行くよね? 行くでしょ?」
「……そんなに連呼しなくてもいいだろ」
「リーシェ兄さんは何かにつけて、食事を一緒に取ることを拒否していたからだよ」
「まぁ、理由があったから……けど、今回は行くよ」
「約束だよ。兄さん」
「はいはい」

 シェーリオルはカサネの言葉通り、エレテリカに嘘をつき続ける。
 そしてカサネの言葉通り、生き続けられる限り生きる。
 エレテリカとシェーリオルは歩き続ける。


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