U 繰り返す。 終わりを求めて、けれど終わりを拒むように連撃がひたすらに続く。 銃剣が空を舞い、地面へ無様に転がる。 肩に置かれた手が、地面へ縫い付ける力となる。 ノハは押し倒され、リアトリスはその上に馬乗りする。 「はぁはぁ……全く、化け物? 私が万全な状態でボロボロのノハに挑んでギリギリとか……」 リアトリスは全身傷だらけで、誰が見てもわかるほどにボロボロだった。 それでも、最後にはノハを殺せる状況まで追い込んだ。 「例えどのような状況化であろうと勝ちは勝ち。負けは負けだ。いいよ、僕を殺しな」 「ノハっ!」 刃を突き立てればそれで終わるというのに、ノハは命乞いをするわけでもなく、さわやかな笑みを浮かべていた。 死を望んでいるわけではない、死を望んでいないからこそ今日まで包帯を身体中に巻いて生き延びてきた。 それでも、死を間近にしたことに対する恐怖の感情は見て取れなかった。 リアトリスは槍を掲げ、突き刺す――ノハの顔の隣を。 「どうしたの? 疲れて位置を間違えた?」 本気で言っているノハの言葉に、変わらないなとリアトリスは思う。 その、暗殺者でありながら――ずれている感性は今も昔も変わらない。 「……いいって言われた」 「何が?」 「カトレアが、殺したくなければ殺さなくていいって言ってくれた。アークが依頼を達成しなかったことでどれだけシェーリオルの恨みをかったとしても、アークは許してくれるって。ううん、許すとかそれ以前に笑って何も気にしないって言ってくれた。殺したくないなら、殺さなくていいって……」 「良くないでしょ。僕は君を殺そうとしたんだよ」 「知ってる。けど、それを言えば私だってノハを殺そうとした。けど――わかんないの」 「わからない?」 「殺し、殺そうとしたことはお相子よ。お互いさま。むしろ私のほうが悪いけどね、出発点はノハなの」 リアトリスの腕が振るえる。 殺す気は確かに合った。殺意はなくとも殺害はできた。 けれど――カトレアに狂わされた。ノハと殺しあえば殺しあうほど、どう殺せばいいかわからなくなった。 カトレアが『殺したくなければ殺さなくていい』といったから。 「出発点が僕?」 「そう。『カナリーグラス』に買われた時点で私たちの命運は決まっていたようなもの。私はともかく、カトレアは――優しい妹は、私と違って心を殺せないから生きる道はなかった。閉ざされていた。私じゃどうにもならなかったカトレアの道を、ノハは開いてくれた」 「それはリアが、カトレアを守るって宣言したからだ」 「違う。確かに私は宣言した。けれど、誰も耳を傾けることなんてしなかったはずよ。ただの子供の戯言でしかないのだから。けど、ノハだけは私の戯言を許諾してくれたの。カトレアの命をいだのは、私じゃなくてノハだから。そう思ったら――私は、どうしていいかわからなくなったの」 「そっか」 「だからさ、ノハ。私と一緒に逃げよ? シェーリオルの依頼なんて無視して。シェーリオルはあらゆる権力を行使してくるだろうけど、そんなもの知らない」 「カトレアはどうするのさ」 ノハは微笑みながら問いかける。 「カトレアは、私と一緒にいないほうが幸せになれるから」 「リア。それは勘違いだ。カトレアがリアの傍にいるせいで、本当の幸せを掴めないなんてことはない。リアもカトレアも二人で幸せになれるよ」 「……そんなことない」 「あるって。君が本当に――リアがいたい場所に、リアはいていいんだよ」 「……そんなこと……ないよ……私は、ノハも。アークもリテイブも、みんなみんな血に濡れた人殺しだけど、あの子は何もしていないのだから。あの子の手は綺麗。私たちと違って……だからっ」 「大丈夫。カトレアだけが血に染まっていなかったとしても、それでリアと一緒にいて幸せになれない理由はない。例え、君がそれで、君の幸せを感じられなかったとしても――カトレアは幸せでいられるよ」 [*前] | [次#] TOP |