零の旋律 | ナノ

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 リアトリスはホクシアのもとを訪ねる。

「久しぶり」
「……えぇ」

 突然の来訪者に驚きながらも、ホクシアは応じる。

「最近はどう?」

 世間話から入ってきたリアトリスの予想外の言葉に一瞬迷いながらも素直に答える。

「大変ね。ミルラが連れてきた異世界の魔族ユエリは、ミルラを殺そうと虎視眈々と殺気を放っているし、ミルラはミルラでそんなユエリを慈愛の目で見ているからこっちとしてはいつ火花が飛び散って大惨事になるかドキドキものよ」
「それは仕方ないね」
「……時たま聞いていたけれど、最初から貴方が普通の口調で話してくるのは違和感があるわね」
「これが、私の本来の口調だからね。これから私がやりたいことは、レインドフ家のメイドとは関係ないことだから」

 実際にはシェーリオルの依頼をアークから受け取る形だったため、関係はあるのだろう。
けれど、関係ないとリアトリスはした。

「そう。で、何?」
「貸しを返してもらいに来たの」
「――何を望むのかしら」
「カトレアを、この村に住まわせて」

 予想外の言葉にホクシアは言葉を失った。
 異世界エリティスでは何度もリアトリスに助けてもらった。その借りはいつか返したいと思っていたのも事実だが、まさかそのような条件で借りを返すことをお願いされるとは思わなかったのだ。

「……ここは、魔族の村よ」
「シャーロアだって住んでいるじゃない」
「彼女は別よ」
「それに、魔族の人たちはカトレアに対して、悪い感情を持っているものは少なさそうだし、ここで暮らせば、最初は複雑な感情を持っている魔族もやがては態度を軟化させるでしょ? ミルラに関してはホクシアが頑張ってちょうだい」
「一番の無理難題を私に吹っかけてきたわね……ミルラの頑固さは……もう頭を抱えるほどよ」
「だから、一度ではない借りを返してもらうのには最適よ」
「……どうして、そんなことを望むの。そもそも貴方は」
「私は、カトレアを幸せにしたい」
「それが、貴方の望み」
「そう。カトレアが、真に幸せになるためには私がそばにいちゃダメなんだよ。それは幸せに見えても仮初、偽りでしかない。永遠に続くものじゃなくて、終わりがくるもの」
「どうして、貴方がそばにいては駄目だと思っているのかしら? 貴方が何より、彼女の幸せを望んでいるのならば」
「望んでいるから一緒にいられないことだってある。私の手は血塗られているから。数多の人を殺害してきた、ただの暗殺者だから。けれどカトレアは違う。妹の手は血に濡れていない。だから、私と一緒いたら、本当の幸せにたどり着けない。それでも私は妹と一緒にいたかった。けど、ここが分岐点なの」

 リアトリスはすでに決意をしているようで、瞳が揺らがない。
 ホクシアはため息をつく。

「わかったわ。カトレアが安心していえ……安全に幸せに暮らせるよう私が尽力を尽くしましょう。けど、一つ覚えておきなさい。血塗れたとか、血塗られていないとかその程度のことで、二十年も生きていない子供が――他人の幸せを本当かどうか決めるな」


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