零の旋律 | ナノ

姉の選んだ道


 リアトリスとノハが刃を交える数時間前。
 彼女は双子の妹とともに魔族の村を訪ねていた。彼女らの姿は、異世界エリティスの事件でたびたび魔族の村に出入りをしていたため、人族がやってきても攻撃されることはなかった。
複雑な感情が渦巻いていることをリアトリスは理解しながらも、カトレアへ向けられる暖かい感情も感じ取っていた。
 ――カトレアは、私がエリティスに行っている間、魔族の村にいたから当然よね。
 リアトリスはシャーロアを探すとほどなくして見つかった。
 シャーロアは魔族の子供と一緒におままごとをして遊んでいたのだ。小さな子供たちと比べれば頭一つ身長が高いし、何より光加減で水色にも紫にも見えるような独特の髪は目立つ。

「シャーロア」

 リアトリスが声をかけると、シャーロアは目を見開く。

「久しぶりだね!」

 笑顔を向けてくるシャーロアは、大切な兄の死から立ち直っているようにリアトリスには思えた。
 心の傷をいやしてくれる大切な人たちがここにはいるからだろうと推測する。

「うん」
「どうしたの? 遊びにきたの?」
「うん。ちょっと私はホクシアと話したいことがあるので、その間カトレアと遊んでいてほしいのですよー」

 メイドのリアトリスとしての口調を忘れて素で話しそうになり、口調を意図的に偽った。
 シャーロアはその変化に気づいていないようで、いいよ。と裏表のない笑顔を向けた。

「じゃあカトレア。ちょっとホクシアと話にいってくるです」
「……お姉ちゃん」

 妹であるカトレアだけが、ホクシアに何を交渉するのか理解できて、姉の手袋を指先でつまむ。

「大丈夫です。私の大切なものはカトレアだけですから」
「……お姉ちゃん」
「今だって、過去だって、未来だって。私はカトレアの幸せだけを考えているですよ」
「私は……お姉ちゃんにも幸せになってもらいたいから。お姉ちゃん、聞いて」
「……何?」
「あのね。殺したくなければ殺さなくてもいいんだからね。アークが依頼を達成しなかったことで、どれだけシェーリオルの恨みをかったとしても、アークは許してくれるから。……ううん、違うね。許すとか、それ以前の問題。笑って、何も気にしないって言ってくれるよ」
「カトレア……」
「お姉ちゃんが私の幸せを望んでくれるように、私もお姉ちゃんに幸せになってもらいたいの。だから、お姉ちゃんがしたくないって思ったことは、する必要なんてないよ。お姉ちゃんが幸せになれるって思った道があるなら、その道を走っていいから」

 笑顔で伝えてくるカトレアに、リアトリスは何も言えなくなった。
 シャーロアは、会話の内容が分からずに、二人の顔を交互に眺める。

「お姉ちゃん。私は――大丈夫だよ」
「……有難う、カトレア」

 リアトリスはカトレアを優しく抱きしめる。その暖かさ。
 幸せになってほしい、唯一の妹。
 何よりも優先すべき大切な妹から、言われた言葉が暖かくて――悲しくて、胸に突き刺さる。

「じゃあ、私は行ってくるから。シャーロア、よろしくね」
「え? あ、うん」

 シャーロアは事情を理解しないまま頷いた。


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