U 「……始末屋とリアが手を組まなくても、今まで通りの立場でリアがカトレアを守ることは可能だったよ。僕とした約束は、リアが約束を守っている限りカトレアに手出しはさせないこと。けど、僕との約束がなくてもリアは自力でカトレアを守れたから」 「――!」 「リアがカトレアを自分で守ると断言すれば、それだけでカトレアの安全は保障された。何せ、当時の僕よりあの時のリアは実力が上なんだ。当時の僕で守れたものを、あの時の君が守れないわけないだろ」 「そっか。私はてっきり――ノハがカトレアを殺すと思ったんだよね。もう、約束を守れない私たちに居場所なんてないと」 自分がカトレアを守ると断言すればよかっただけ、始末屋のメイドになる以外の選択肢も残されていた。 けれど、当時のリアトリスにそこまでの考えが浮かぶはずもない。 今の今までその可能性に気がつけなかったのだから。 何せ――今も昔もリアトリスにとって何より大事なのはカトレアだから。 他者の心情を推し量ることは難しい。 感心がないから――それでも、ノハとアークだけはリアトリスの中で同じくらいの割合で特別だった。 暗殺者として才能の欠片もないカトレアが売られそうになった時、助けてくれたノハ。 ノハとの約束が守れなくて絶望していた時にメイドになるという選択肢を与えてくれたアーク。 その二人だけは、カトレアを除いた人の中で唯一特別たる存在だった。 カトレアに未来を与えてくれたから。 「うん、すっきりしたよ」 胸に仕えていた疑問。それがリアトリスの中で霧散する。 問う必要もない。 例え過去ノハが大切なカトレアを自分の傍に置くことを許諾していてくれても、カトレアの友達であるシャーロアを傷つけあまつさえ、自分を取り戻すためにカトレアを人質にした過去は変わらない。 始末屋と手を組んでノハを無きものにしようとした過去も――変わらない。 過去における過程は何一つ変動しない。 だから過去に納得した上で歩くのは血塗られた未来だけだ。 リアトリスは嘗てノハからプレゼントされた槍を手にする。花弁が無数に連結したそれは、鞭と槍の機能両方をかねそろえている。いろんな武器を扱ってきたけれど、これほどまでに自分の手に会った武器は生涯これ一つだろう。 対するノハも両手に銃剣を構える。瞳の色は長い前髪に隠れて見えない。 「そう、それはよかった」 「――ノハ、私が殺してあげるね」 「冗談。さしで負けつつもりなんてないよ」 先手必勝とリアトリスが地面を蹴る。距離を縮めたリアトリスは上空から右手に構えた槍を振るう。花弁の連結がノハを抉ろうと凶器の刃を煌めかせるが、ノハはそれを後方に飛ぶことで回避する。地面を抉った花弁が、ノハを襲おうと後方へ地面を抉りながら空中へ躍り出る。 向かってきた刃を今度は銃剣の剣部分で弾き飛ばす。リアトリスは地面へ着地するタイミングを見計らってノハは引き金を引くが、リアトリスが槍の先端で弾く。その衝撃でリアトリスはやや後方へ移動する。 [*前] | [次#] TOP |