零の旋律 | ナノ

カナリーグラスの二人


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「こんな所で寝て、襲撃されるよ?」
「襲撃されるから、こんな所で寝ているんだけど」

 ノハは瞼を開く。開けた視界に映ったのは金髪の少女だ。

「屋根のある場所だといざという時動きにくいし、障害物が邪魔だ」

 そうノハ・ティクスは金髪の少女の質問に答える。そよ風が、寒いほど肌にまとわりついてくる。
 木を背もたれにして仮眠をとっていた。自然があふれる場所は、建物がある場所よりも動きやすく、身を隠すのにも最適だった。泳げないから水場は避けて移動している。

「シェーリオルを敵に回したんだもんね。何故、シェーリオルは殺さなかったの?」

 策士カサネ・アザレアを殺害した時、あの場所にシェーリオルはいた。
 シェーリオルはノハを殺そうとしなかった――それは、彼がカサネから受け取っていた手紙があったからだ。
 だから今も自らの手でノハを殺害したい殺意を煮えたぎらせながらも、他者の手を借りている。
 だが、ノハがあの場でシェーリオルを殺さない理由は別にないように思えたからこそ、リアトリスは疑問だった。
 殺してしまえば、シェーリオルから手段を択ばずに命を狙われることもなかった。

「僕がしようと思ったのは、最後に約束をしたアネモネが殺されたから、せめてその敵だけは打って上げようって思っただけだ。策士がアネモネを殺したのなら、王子を殺す必要はない」
「だから今の結果になっているのにね。まぁ殺したら殺したで、追われるのは目に見えているか」
「けど意外だな」
「意外?」
「そう。てっきり、始末屋がやってくるもんだと思っていたよ」

 ノハは笑った。
 生半可な相手では、ノハ・ティクスを殺すには至らない。実際、今までの刺客は返り討ちにした。
 だからこそ、始末屋がやってくるとノハは予想していた。

「――貰ったの」
「ん?」
「私が、アークから譲ってもらったの」
「そっか」

 ノハは木を背もたれにして座っていた身体を起こす。アネモネの治癒術で以前リアトリスと再会した時よりは怪我の具合がよくなったとはいえ、昼夜問わずの襲撃で怪我の状態は悪化しているし、治してくれるアネモネはこの世にいない。

「ねぇノハ。一つだけいいかな、私が――もしもあの時ノハとの約束を守れなかった時、アークと手を組む以外の方法を導いていたら、ノハはどうした? それ以外の方法はあったのかな」

 ふいに口を出た疑問。
 その疑問を解消しなければ是から己の意志で刃を向けることが出来ないと言わんばかりで、そのリアトリスらしくなさにノハは笑った。
 ホクシアを人質に取った時よりも穏やかに会話が出来ている事実をノハは不思議に思った。
そして気付いた。
 此処にはカトレアがいないから、此処にはアークもヒースリアもいないからだ。
 暗殺者組織『カナリーグラス』で共に背中を預けあった二人だけがこの空間にいるからだと理解した。

 ――まぁリアが、僕と戦うのにカトレアを連れてくるわけがないか。
 ――となると、カトレアは安全な――始末屋たちと一緒にでもいるってところか。それか、それ以外の安全な場所か。

 この場いないカトレアのことを考えながら、リアトリスの疑問に答えることにした。


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