零の旋律 | ナノ

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「リアトリスはどうする?」
「そうですねぇー、主の仕事が終わるまで暇なんでその辺を観光してきますわー」
「わかった」
「というわけでお小遣い下さい」
「集るな」
「やです」

 やれやれとアークは懐から財布を取り出し、リアトリスに渡す。

「確かに頂きました。では、食事をしっかり食べてから仕事してくださいねーじゃないと途中で倒れちゃいますよ、私の面倒事増やしたら許さないのですから」

 返答を待たず、リアトリスは椅子から降り、勢いよく階段を上って行く。
 嵐が去ったような静けさにアークはため息一つ。

「……そろそろマスターが店にやってくる時間だわ、店じまいにするから、出て行ってちょうだい」
「わかった」
「あぁ、すまなかった」

 ローダンセとアークは店から立ち去る。カルミアは静かに後片付けを始める。此処にカルミア以外誰も訪れなかったようにするため。


 二人っきりになった時、ローダンセは後ろを気にしながら、アークに尋ねる。

「カルミアって何者?」

 本人に聞くわけにもいかず、ローダンセはアークと二人になる時を待っていた。

「ん? 本人が教えていないのに俺が教えるわけないだろう」

 あっさりと断られたが。

「そうか。ならいいや。ただ者じゃない事はわかったし」
「アルベルズ王国ではそうでなくてもリヴェルア王国では有名だぞ……レインドフとかと同一の意味でな」

 最後は独り言のように呟く。勿論その呟きはローダンセの耳にとぎれとぎれにしか届かない。

 街へ戻ると喧騒で溢れていた。人々は広場に集まっている。

「どうした!?」

 人々をかきわけローダンセは中心部へ向かう。
 アークは屋根の上に上がり様子を眺める事にした。一部の人間にはローダンセを殺そうとしている場面をみられているため、面倒事に成らないための対策だ。

「ローダンセさん! 待っていました」
「どういうことだ?」
「皆で反乱起こしましょうよ!」

 一つの波紋は広がり、やがて団結を築きあげた。皆の意志は一つに纏まっている。
 これ以上理不尽な圧政に屈することなく現状を変えようと――自ら動いた。
 此処から先、実力行使に出れば犠牲者が出ることは確実だ。その犠牲者に自分がなる可能性を考慮した上で、それでも――戦う事を決意した。
 ローダンセは、自分と一緒に堂々と立ち向かう勇気が胸に染みた。
 溢れそうになる涙を抑えてローダンセは笑う。まだ、何も終わっていない。これから始るのだ、泣くことは出来ない。

「よし、行こうか」

 広場の人々と共に、王宮へ進もうとするが――ローダンセの足が止まる。
 広場は広い。市民全員が集まれる程の広さを誇っており、式典がある時に利用される場所だ。見晴らしもいい。その見晴らしの良さを利用して、アークは広場近くにある家の屋根から様子を伺っている。アークの口元がふと、笑みを浮かべ歪んだ。

「何をしている」

 何処か、呆れた口調で女性の声が聞こえる。ローダンセたちがいる場所に、正面から軍人が規則正しい足音を鳴らしながら現れたのだ。貴族街から広場へ入る時の入り口から軍人たちはやってきた。
 その先頭には宮廷騎士団最強と謳われる女将軍ジギタリス。
 真っ白の髪は光加減で金糸のように輝き、独特の跳ね方をしながら、足首まである。
 軍人が黒い軍服に身を纏っている中、ジギタリスの軍服だけは白い。純白の白さは、黒の中で一際目立つ。
 肩には軍服のコートを羽織っている。胸元付近に紋章が下げられ、軍人として地位が高い事を示している。
 白い布に巻かれた何かを杖の代わりにして地面に置いている。


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