零の旋律 | ナノ

魔導師が選んだ道


 カサネの死体を人知れず埋葬した後、シェーリオルは王宮の自室へ戻る。
 力なくベッドに横たわり手の平で顔を覆う。

「馬鹿なやつだよな、ホント。最初から最後まで」

 利用できるものは全て利用して最善の策を練り、エレテリカのために暗躍をする策士は最後に共犯者を武器として使わなかった。
 エレテリカの――カサネがいなくなった未来をこの眼に記録するために。
 悲しみが胸を渦巻く。心臓を掻き毟ってしまいたくなるほど、針が無数に突き刺さる。
 顔に爪を立てる。痛みが痛みをかき消してくれないかと言わんばかりに。強く、強く。皮膚を握りしめる。

「ホント、大馬鹿だっ」

 悲しみは癒えない。
 けれど、やるべきことはあるとシェーリオルは身体を起こす。
 エレテリカへカサネへの死を伝えず偽り嘘をつき続けるための綻びのない物語を考える時間がカサネはなかったのか、それともシェーリオルが偽りやすいように考えなかったのか、策がない。
 だからこそ、シェーリオルは己が最も嘘をつき続けられる自信がある偽りだらけの物語を思考する。
 次に、シェーリオルは己の望みを叶えるために動く。

「ちっ。仕事中毒の癖に仕事を休業するなよ」

 半ば八つ当たりに近いイラつきをシェーリオルは吐き出す。
 始末屋に依頼をしようと思った。彼の実力は間近で見続けて実感しているからこそ、この依頼に最も相応しい人物だと確信していた。
 それなのに休業中だった。休業中に依頼した奴は殺すという物騒な張り紙までして観光に出かけた以上、戻ってくるまで依頼はできない。
 さりとて、戻ってくるまで我慢ができるわけもなかった。
 ならば――と他の面子をあてにしようと思ったが、ジギタリスとカイラはあれ以降行方が知らない。行方を探してもいいが、それに時間を費やしたくなかった。
 魔族に依頼するわけにもいかない。
 彼らとは少しだけだが歩み寄ることが出来始めたのだ、今此処で溝を差してはカサネが様々な策を弄したものを壊してしまう。
 カサネが願ったことは裏切りたくない。
 だから、シェーリオルは片っ端から、正体を隠し、金銭を惜しまずに殺人を請け負う人族に依頼しまくった。
 カサネの敵をとるために――ノハ・ティクスの殺害を。彼を殺害するためならばシェーリオルは手段を択ばなかった。


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