零の旋律 | ナノ

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 リヴェルア王国王宮内の一室で、カサネは両袖机の左側引き出しから書類を数枚とって並べる。
 椅子に座りながら、ため息をついた。

「何始末屋が呑気に観光しているんですか」
「始末屋を花屋として扱ったりしているお前にだけは言われたくないと思うぞ」

 壁側の椅子に座って足を組んでいるシェーリオルは笑いながら言う。

「まぁそれもそうなんですけど、何でもしてくれるので便利なんですよね」
「何でも屋扱いしまくるとそのうち仕事引き受けてもらえなくなるぞ」
「大丈夫ですよ。どんな仕事にしたって引き受けてもらえますよ――彼は仕事中毒なんですから」
「……何か、始末屋に頼みたい事があったのか?」

 シェーリオルは真剣な眼差しでカサネを見る。

「えぇ。まぁ尤も始末屋に頼むまでもない案件なので大丈夫です。別を雇いますよ」
「……いいのかそれで?」
「始末屋なら他の人たちより便利ってだけですから問題ありませんよ」
「わかった。カサネがそう言うなら。けど、何かあったら俺を頼れよ」
「シオルのことは勿論、必要な時に頼りますって」
「王子をパシルな」
「頼れっていったのはシオルじゃないですか」

 シェーリオルと会話をしながら、脳内では別の事をカサネは思案する。
 始末屋アーク・レインドフに依頼したい案件があったが、観光に出かけている彼は一切仕事を引き受けないとの情報を入手していた。始末屋は当分使えない。

 ――さて、どうするか。シオルだけは使えない。

 ジギタリスやカルミアへ依頼することも考えたが、異世界からの扉を閉じた後行方を眩ませている。恐らく、仕事を引き受けない為の意志だろう。
 探しだすことも不可能ではないが、それに時間を割くことは避けたい。

「……シオル」
「なんだ?」
「ちょっと使いを頼んでいいですかね?」
「さっそくか。何をすればいい?」
「頭の固い、貴族どもを籠絡してきてください」

 笑顔で告げられた言葉に、シェーリオルは呆れた。
 カサネは第一王位継承者であるエリーシオが王位につくとき、反対する人族がいないよう万全を整えようとしている。
 最初、エレテリカの元へ姿を見せた時は彼を王位につかせようと画策した。
 けれど、結果としてエレテリカは王位を望まなかった。
 だからエリーシオと取引をした。彼を王位につかせる代わりに協力関係を結んだ。
 元々第一王位継承者であったエリーシオを指示する人族は多いが、カサネがエリーシオを失墜させようと影で動いていた時期があだとなり、反発している人族も少なからずいる。
 エリーシオならば王位についた後、自力で反対を賛成へ切り替えさせるだけの手腕はあるが、万全な盤石を築き不足の事態が起こらないようにすることが大事だとカサネは考えている。
 全てはエレテリカのために。

「わかったよ。どの辺からが希望だ?」
「そうですね、未だに貴方を指示しているあたりから」

 有無を言わさぬ笑顔をカサネは向ける。王位に継承をする気は全くなくとも第二王位継承者という立場から、シェーリオルを押す人族はいる。其れをシェーリオル自ら赴きエリーシオに鞍替えさせようとしているのだ。

「俺に鞍替えさせるとか、ほんと酷いな。じゃあちょっといってくる」
「えぇ。気をつけて」

 シェーリオルはカサネに背を向けて手を振る。彼が部屋からいなくなったところで、カサネはペンを握り、紙に文字を綴っていく。

「……嘘をついたことは、謝りますよ。シオル」

 本人がいない空間でカサネは懺悔する。

「でも、私は私の目的のために動きます。――まだ、時間はどれくらい残っていますかね」

 呟いた言葉は、空しく消え去る。
 不穏な、王子を幸せにするのに不必要な要素は排除しておかなければならない。
 それが、カサネの為すべきことだった。



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