零の旋律 | ナノ

始末屋旅行


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 異世界エリティスとの扉を閉じることに関しては、カサネの指揮のもと様々な物資を異世界へ放り投げてから回廊を遮断したと言う報告を書類でアークは受け取っていた。
 あれから一週間が経過した。
 異世界に渡ると言う二度とないような経験を体験した後は、カサネたちの出番だったので武力行使は魔術師の残党を退治するのに多少協力した程度で終わった。
 サネシスの魔石だけでは報酬が足りなかったので、カサネからも報酬を頂いていた。魔石は机の引き出しの中に出番なく仕舞われている。
 日常の始末屋として引き受けた仕事を終え、部屋で次の仕事が来ないかなと待ち望んでいる時、リアトリスが扉をノックせず勢いよく開けて室内に入ってきた。

「主―! 旅行するですー!」
「仕事したい」

 アークは即効断る。

「酷いです。日頃従業員に対して感謝の気持ちを込めて旅行をプレゼントしてくれたっていいですのに、主ったら働けと言うのですね」
「嘘泣きは止めろ。そもそも日頃働いてないだろ、サボってばかりで」
「そんなことないですよー。今から主にお茶をぶっかけてその服を洗うのは一体誰ですかって言ってやるです」
「洗うのは俺です」
「ですねー」
「おい」
「とにかくです、旅行です。旅行」
「なんで急に旅行いきたいんだよ?」
「え、そんなの遊びたいだけに決まっているじゃないですか」

 胸を張って答えるリアトリスにアークはため息をついた。

「何処に行きたいんだよ」
「アルベルズ王国です!」
「……リヴェルアじゃないのか?」
「そうですー。アルベルズも今は落ち着いているですし、エリティスとの騒動だってもう私たちと関係ないじゃないですか」
「そりゃそうだな」
「というわけで思いでをつくりましょう」
「ただたんにバカンスしたいだけだろ」
「主はいつの間に私の心を読めるようになったんです―!? 気持ち悪いですね。豪華な旅をしましょうですー! 丁度主、がっぽり稼いだあとですしー」
「俺が稼いだの全部使うつもりかよ」

 因みにリアトリスとヒースリアはアークに仕事をしたのだから報酬をよこせと既にアークがカサネから貰った報酬の半分は奪われている。

「あくどい方法で稼いだお金は綺麗なことに使ってあげるべきです!」
「別にあくどい方法で今回稼いでないよ!?」
「主の手に渡ったら全てあくどいお金になるのですー!」
「はいはい、わかったよ。じゃあ旅行するぞ」
「やったー!」

 これ以上リアトリスと仕事か旅行かで言い争っても引き下がらないのは目に見えている。
 ならば、アークが折れて旅行するしかなかった。

「カトレア、遊びにいくですよ!」

 くるくると回りながらアークの部屋を飛び出そうとしたので

「待て、リィハにも連絡入れろ!」

 そう叫んだ。一気に静かになったなと、アークは紅茶を口につける。

「折角旅行するなら、豪華な旅がいいよな。アルベルズで一番高級な宿の予約をとって、滞在日数はどうするかな……二週間ほどでいいか。その間レインドフは休業をして……仕事を振ってくる馬鹿がいたら始末するか」

 アークは紙を取り出して今後の予定をかきだしていく。
 仕事中毒なアークは仕事をしたい気持ちが山ほどあるが、休暇をとって仕事に対する情熱を深めるのもいいと思った。

「何か……アルベルズに関するいい本あったっけ」

 立ちあがって本棚を眺めてみるが、アルベルズ王国関連の書物を見つけて開いたところで観光名所は殆ど載っていなかった。
 元気を通り越して五月蠅い足音が聞こえたと思ったら再び扉が乱暴に開かれた。
 今度はリアトリスだけでなく、カトレアとヒースリアもいる。

「主。旅行前に新しい服を買ってきたいです」

 そう言って両手を前に差し出してきた。

「おい、給料やってるだろ」
「カトレアに貢ぐなら主だって喜んでその財産を分け与えてくれるでしょ!」
「いやまぁ」
「ほらほら!」
「主、勿論私にもくださいね」
「あー、わかったわかった! お前ら三人買い物に行って来い! ついで、観光本買ってこいよ。それくらいはやれよ?」
「仕方ないですね、それくらいは働いて差し上げましょう」
「上から目線すぎだろ、たく」

 アークはリアトリスに三人分のお小遣いを渡した。
 ようやく静かになったと、アークは紅茶を口に含む。
 二日後、始末屋レインドフ家はアルベルズ王国へ観光に出かけた。



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