零の旋律 | ナノ

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 ホクシアの部屋は閑散としていて必要なものだけが最低限置かれていた。生活空間というには余りにも寂しい。

「ホクシアはもっとお洒落に飾ったらどうですー?」

 リアトリスが問うと、興味ないとホクシアは切り捨てる。

「いらないわよ。そもそも私は普段からあまり部屋に戻ってくることはないから最低限寝る場所があれば問題ないわ」
「そうですかー」

 ホクシアは日夜、村の外で危険に身を投じながら魔族を解放している事実が伺えたのでリアトリスはそれ以上部屋について口をつぐんだ。
 アークはハイリから治療を受けながらユーエリスのことを聞いた。

「戦いたかったよ」
「誰が戦闘中毒と戦闘マニアを合わせるか馬鹿」

 以前と同じような言葉が返ってきた。

「全く主がこんなに怪我をしているなんて、死ぬ可能性もあったのかと思うと戦々恐々です」

 ヒースリアが態とらしく身震いする。

「戦々恐々って何か意味おかしくないか」
「おかしくありませんよ。大丈夫です」
「主がーってお前だって死にそうな怪我をしていたじゃないか」

 ハイリがツッコミを入れるとぎろりとヒースリアが睨みつけてきたので、怯えてリアトリスを盾にして逃げた。

「ちょ、女の子を盾にするとか紳士的じゃないですよ」
「俺が紳士なわけないから問題ねぇ!」
「そういう問題じゃないです。いえそれよりもヒースが怪我をしていたことが気になりますね、詳細プリーズです!」
「いったら殺す」

 その瞳には確かな殺意が宿っていてハイリは震えた。

「いや、リィハ。話せ。俺も知りたい」

 アークが知りたい勢に加わって、話さなくても話してもどちらに転んでもいい未来が待っていない。ハイリは余計なことを口走ってしまったと後悔する。

「口は災いのもとですね。さぁ私に殺されるのがいいか、私に始末されるのがいいか選びなさい」
「結末一緒だ!」
「ちょっと、貴方たち。少しは静かに出来ないの」

 ホクシアは呆れる。元々世界エリティスにいた時も賑やかではあったが、そこにヒースリアとハイリが加わるとさらに賑やかになる。

 ――ってレインドフが賑やかなだけじゃないの。

「無理です―! あっリィハ。早く私を直してくださいですー。怪我をしたままカトレアにあって心配かけたくないですから!」

 魔族の村にはカトレアとカルミアがいる。しかし、怪我をした姿を見られて心配されたくないという理由で真っ先に妹を抱きしめたい思いを我慢してリアトリスはまだカトレアと再会をしていない。
 シャーロアは現在、カトレアとカルミアと同じく魔族の村にいる。

「俺も早く治せ」
「お前ら……俺の治癒術は面倒だとか、他の奴をやれとか拒んでいた癖に、リィハの方は受けるのかよ!」

 シェーリオルが抗議する。

「リィハのはあっと言う間だからめんどくさくなくていいんだもん」
「もんとか野郎が言うな気持ち悪い!」
「はは」
「はぁ」

 シェーリオルはため息をついた。こんなことなら治癒に奔走しないで得意の攻撃魔導で敵を蹴散らしている方がよほど良かったのではないかと思い始める。

「ジギタリス……大丈夫か」

 カイラが床に座っているジギタリスの傍へ移動する。ジギタリス足元まである銀髪は床に座ることで、布のように広がっているそれを踏まないようにしながら隣に座る。

「私は大丈夫だ。カイラこそ、平気だったか?」
「俺は……平気。ジギタリスが生きていて良かった」
「私もだ。カイラお疲れ様」

 ジギタリスがカイラの頭を撫でる。カイラは気持ちよさそうに、目を瞑った。
 ハイリはリアトリスの治療を終える。怪我が治ったリアトリスは身体の調子を確かめるように軽く動かしてから

「では、カトレアを抱きしめにいってくるです!」
「じゃあ私も同行します」
「えっ待て! 俺も行きたい!」
「主は怪我が治っていないので駄目です―! そんな血みどろをカトレアに合わせるわけにはいきません!」
「リィハ一秒で治せ!」
「無茶言うな!」
「ではではリアトリス行きましょう」
「はーい!」

 ヒースリアとリアトリスがスキップする勢いで機嫌よくアークを置いて外に出て行った。

「リィハ! 急げ!」
「はいはい。超特急で頑張りますよ」

 ハイリはため息をつきながら成るべく要望にこたえられるようアークの怪我を治癒していった。

「よし! じゃあ俺は追いかける」

 怪我が完治したところで、アークも慌ただしく外へ走って行った。

「……リアトリスもアークもさ……血まみれの服でいいのかな」

 ボソリと呟いたシェーリオルの言葉は、この場にいないものたちには届かなかった。

「ほら、次はリーシェ王子。お前だ。さっさとこい」

 ハイリが手招きをする。

「頼むわ」
「リーシェ兄さん。大丈夫?」

 エレテリカが心配そうにシェーリオルの隣にしゃがむ。

「大丈夫だ。俺は途中から殆ど治癒に奔走していたからな、ミルラを除いたら一番元気だよ」
「それならいいけど……でも怪我をしているよ」
「そりゃ、怪我くらいはするさ。けど大丈夫だ」
「わかった。リーシェ兄さん」
「なんだ?」
「おかえりなさい」
「ただいま」



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