零の旋律 | ナノ

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「シオル。魔導でエリーシオあたりに伝達をして頂けますか? 此方で分け与えられる自然と物資の用意をお願いして置いて下さい。あと、技術も分けましょう」
「わかった」

 シェーリオルが指先を滑らかに動かすと、ミルラの魔石が輝き青い鳥が生まれる。鳥は意志を持つように空を羽ばたいた。

「そちらは問題なく最高指導者は撃ちとれましたか?」
「えぇ。けれど、他の残党が襲ってくる可能性はあるでしょ?」

 ホクシアが腕を組みながら問う。

「そうですね」

 あっさりと認めたカサネにホクシアは目を丸くする。

「ちょっと」
「けど、大丈夫ですよ。主力を排除したのならば、あとは有象無象でしかありません。ならば、異世界の回廊を閉じてしまうだけです。魔法封じも破壊したのでしょう?」
「……えぇ」
「なら問題はありませんね。ミルラの結界が破れるほどの力はもう向こうに残っていません。此方の世界へ渡っては来られませんよ」
「……わかったわ」
「此方は、ルドベキアを打ちました。イ・ラルト帝国との交渉も終わらせています。思惑通りに動いてくれたので、もう問題ないでしょうが、念の為エリーシオの部下にでも暫くの間イ・ラルト帝国は見張らせておきます」

 第一王位継承者なのにカサネの部下みたいだなとアークは密かに思った。

「シオルの治癒術だけでの完治は難しいでしょうから、怪我した方々はハイリの治療を受けて下さい」
「わかったわ」
「出来れば何処か休める場所を貸して頂けるといいですね」
「なら私の部屋にでも案内するわよ」

 アーク、シェーリオル、リアトリス、ジギタリス、ハイリがホクシアに続く。ヒースリアとカイラの怪我はハイリによって治癒術で治せるものは完治していたが、続いた。

「エレテリカ。ハイリの手伝いをお願いします」

 カサネの言葉にエレテリカは頷いて、ハイリの元へ走っていた。

「じゃあもう用件はないな?」

 怪我らしい怪我を負っていないミルラがカサネに問う。尤も怪我をしていたとしても人族の治療をミルラが享受するとは思えない。

「……えぇ。では、必要な準備が揃い終わったら貴方を呼びます。それで構いませんね?」
「あぁ……私は村にいる。大体は部屋にいるからそこへこい」
「わかりました」

 ミルラはユリファスで常に一緒にいる白の魔物を呼びよせ跨ると同時に、ユエリへの拘束を解いた。

「行くぞ」
「…………」
「私を殺したいのならば、私と一緒にいる方が確実だろ」
「ちっ」

 ユエリは渋々ミルラの隣に並ぶ。

「所で、自分の足では動かないのか」
「疲れた。私はもうこれ以上一歩も歩きたくない」
「歩きたくないって元々対して歩いてもいないだろうが。少しは体力を鍛えた方がいいぞ」
「……運動は嫌いだ」
「ならばその隙を私はつくまでだな」

 ユエリにとってミルラは仲間ではない。魔族であると言う理由で、世界エリティスから――仲間と故郷から引き離されたのだ。その瞳には当然憎悪がこもっている。
 ミルラはユエリを殺すことはしない。魔族だから、それだけの理由で
 ユエリにとって納得出来ない理由であることはミルラも承知している。
 それでも、何度ユエリが殺意を向けてきても、殺そうと襲ってきてもミルラから殺意を向けることも、彼女を殺害することもない。
 ミルラは魔族を愛しているから。ミルラは人族が嫌いだから。



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