零の旋律 | ナノ

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 青い鳥が空を羽ばたきカサネの腕にとまる。

「それは?」
「王子……これは、シオルの魔導です。どうやら無事に帰還したようです」
「リーシェ兄さん……良かった」

 エレテリカは胸をなで下ろす。異世界という未知の場所に踏み入れた彼らが心配だった。

「……ただし、ヴィオラは命を落としたようです」
「そんな……」

 エレテリカの愕然とした顔に真実を伝えないべきだったかとカサネは思ったが、どの道ヴィオラがいないことは合流すれば伝わってしまう。今のうちに伝えておくべきだと判断した。
 ヒースリアやハイリ、カイラの表情は見ていないので彼らがショックを受けているかはわからない。

「では合流しましょうか。待ち合わせ場所は異世界の扉前だそうです」

 カサネは魔導師数名を用意して魔族の村まで予めマーキングしてくれた場所への移動魔導を展開して貰う。シェーリオルの青い鳥が、転移魔導の補佐をしてくれるので、高名な魔導師数名がいれば転移魔導も可能だった。
 青い鳥が彼らの間を羽ばたき円を描くように回る。青い鳥は糸で構成されていたかのようにほどけていく。糸から文字が生まれ、文字が包み込む。その周囲を魔導師が囲み詠唱をする。
 彼らの視界は光に包まれ、真っ白が一面を覆い尽くす。次に視界が映した景色は異世界の扉だった。
 異世界の扉前には、異世界に赴いた彼らが待機している。

「御苦労さまです。シオルから大方の報告は聞きました」
「そうか」
「此方のことを報告しますと」
「てめっ! なんで怪我してんだよ!?」

 カサネが言葉を続けようとしたのを割って入ってきたのはヒースリアだ。カサネが眉を顰める。

「目が俺らにとってどれだけ重要かなんてわかっているだろうが!」

 無音の殺し屋は、姉であるジギタリスの胸元を掴み、自分の方へ引きよせた。
 瞳には烈火のごとき怒りがある。
 異世界から戻ってきた姉は布で片眼を覆い隠していたのだ。
 カサネの言葉を割って入らなければならないほどに、ジギタリスの瞳が視界に入った。
 話が終わるまで我慢出来るわけがない。
 接近戦ならばともかく遠距離からの狙撃では自分よりも力量が上な精密の狙撃を披露する存在にとって瞳がどれほど重要であるか――狙撃はその力量から行うことが出来ても今までのように絶技を披露することは出来なくなるだろう。

「っ……是から、どうすんだよ!」

 忌み嫌っているはずの存在なのに、それでも――それでも、悲壮な顔を隠せなかった。

「どうとでもなるさ。狙撃主以外の道だってあるだろう」

 平然と振舞うジギタリスにヒースリアは苛立った。
 血を分けた姉を殺そうと思った時ですら怒りを抱くことはなかった。無音の殺し屋という称号を手に入れるために、姉を殺そうと思った。
 そんな弟が姉の怪我に対して怒りを覚えることを、ヒースリア自身は疑問に思わなかった。
 狙撃手としての、姉の実力は嫌というほど認めているから。
 それを失うことが――嫌だった。

「どうとでもって!」
「離せ、リテイブ」

 服を掴んでいるヒースリアの指と指の間に手を入れて、掴んでいた手を離させる。

「リテイブ――私は、後悔してはいけないんだよ」

 ヒースリアにだけ聞こえるよう耳打ちする。

「っ――姉さん」

 後悔していないではなく、いけない。表情を見せずに呟かれた言葉にヒースリアは何も言えなくなる。
 ジギタリスの中で決意したことを外野があれこれと口出す問題ではないのだ。
 ヒースリアは拳を握りしめた。月光を浴びて発光するような銀色の髪が輝く。



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