零の旋律 | ナノ

異界を繋いだ扉


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 世界ユリファスに戻ってきたアークたちの姿に、扉の前で願うように待機していたシャーロアが駆け寄ってくる。
 月光を浴びて、色合いが変わる美しい髪はヴィオラと同じ髪型。ホクシアは胸が痛んだ。
 是から、シャーロアは悲劇の再会を果たすことになる。

「おかえりなさい」

 満面の笑顔で迎えてくれたシャーロアの顔色は刹那、真っ青に変わる。

「お兄ちゃん!?」

 帰還したアークの腕にヴィオラが横たわっているのを見て、嫌な予感が胸一杯に広がる。

「……ヴィオラは、妹を守ったんだよ」

 リアトリスが言葉をかける。その意味を理解したシャーロアの大粒の瞳から涙が零れる。

「お兄ちゃんどうして!」

 ヴィオラの身体にシャーロアは抱きつく。
 瞼を閉じたヴィオラの身体は冷たく、生気を感じない。失われた命。

「どうしてよ! お兄ちゃん! ねぇお兄ちゃん! なんで!?」

 シャーロアの叫びにホクシアは拳を握りしめる。リアトリスは優しくシャーロアの頭を撫でた。

「お兄ちゃんだからですよ。兄は妹を守るものです、だから、シャーロアが生きていればそれだけでヴィオラは幸せなんです」
「でも、私はっ! お兄ちゃんと一緒に! ……生きたかったよ」
「シャーロア。泣いてもいいです、好きなだけ悲しんでいいんです。兄にとって悲しませたことは辛く思うですけど、でもそれだけ兄を愛してもらえたと言う事実に他ならないのですから」

 穏やかな声だった。他のものたちは口を挟まない。
 リアトリスが姉であり妹を大切に思っているからこそ、シャーロアに言葉をかけてあげられたのだ。

「うわぁああああん」

 シャーロアが声をあげて泣く。

「ねぇ、どうしてお兄ちゃんが死んじゃったのよ!! あああぁああああ」

 シャーロアはリアトリスに縋りつき、泣きじゃくる。

「好きなだけ、泣くといいよ。私が、シャーロアが泣きやむまで一緒にいてあげるから」
「うあぁあああん」

 慟哭が痛いほどホクシアやミルラの胸に突き刺さる。
 涙が枯れるほどに泣いたシャーロアは、瞳を拭う。このまま泣き続けていても全てに決着がついたわけではないのだ。兄の死を無駄にしない為にもまだやることがある。気丈に振舞おうとしたシャーロアにリアトリスが優しく背中を撫でると、枯れたはずの涙が再び零れる。

「だい……じょうぶ、私は。だから、まだやることをやろう。そしたら、私は……また泣くと思うけれど、その時はいいかな? リアトリス」
「勿論よ」
「有難う」

 悲しみは心を破壊しそうなほど蠢いている。それでも立ち止まるわけにはいかなかった。

「……ヴィオラを、埋葬してあげましょう」

 ホクシアの言葉に、シャーロアは頷いた。ヴィオラという名前を耳にするだけで胸が苦しくなる。言葉がうまく出てこなくて、頷くことしか出来なかった。
 ヴィオラは魔族の村に埋葬をした。

「お兄ちゃん。また来るからね。まっていてね」

 シャーロアは掌を合わせる。
 シェーリオルは、その間魔導で青い鳥を生み出す。帰還したことをカサネへ知らせるためだ。魔導の鳥は羽ばたき、カサネがいる場所まで一直線に飛び立った。

「集合場所は何処にするんだ?」
「此処にした。異世界を繋ぐ扉に関してもあるしな」

 ちらりとシェーリオルはミルラを見る。
 ヴィオラのことを優先してくれた為、まだ異世界の扉は繋がっているが、何時ミルラが扉を閉じると言いだすかと心配していた。
 せめて、カサネが戻ってくるまでは異世界の扉を繋げておきたい。
 カサネであれば、異世界の扉を何かに使うだろう――その仔細までは読みとれなくても扉が必要な事だけはカサネとの付き合いで理解していた。




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