V +++ イ・ラルト帝国から一足先に脱出したカサネとエレテリカは丘の上にいた。 「カサネ。イ・ラルト帝国はどうするの?」 「……リヴェルアの管理下に置くのも一つの手ですが、まぁそれは選ばせましょう」 エレテリカの質問に対してカサネはそう答えた。 「選ばせる?」 質問の答えが理解出来なくてエレテリカは首を傾げる。 「えぇ。リヴェルアの管理下に入るのか、それとも――新たなる王を選定するかです。ただし、後者を選ぶ場合お互い今回のことに関しては不問にすることが条件ですが」 「不問……王を殺されておいて、その道を選ぶのかな」 「選ぶでしょうね。何せ、私たちはイ・ラルト帝国に対して争いを引き起こしましたが、そもそもの発端はイ・ラルト帝国の王ルドベキアが異世界からの侵略者に手を貸したことに起因します。彼らとてその罪を責められれば弁解の余地などありませんよ」 「……そっか」 「どちらの選択もせずに愚か者としての道を選ぶのであるのならば――イ・ラルト帝国としての形すら残さないような手法を選びますよ。まぁ彼らと手それくらいのことを理解しているでしょうけれど」 不敵に微笑むカサネに、エレテリカは何も言えなかった。 願わくは、彼らがカサネの提示する条件を飲んでくれることを。 「さて、私は王を失った臣下たちに条件を提示しにいきます」 まだカサネはヒースリアからルドベキアを殺したという情報は入ってきていないが、無音の殺し屋が始末屋を殺さずにくたばることはないと確信していた。 「待って。俺もいく。リヴェルア王国の王子がいた方がいいよね? 第三王位継承者とはいえ」 「……わかりました。一緒に生きましょう」 「うん」 カサネの歩みにエレテリカはついていく。 カサネは心の底で思う。エレテリカには知られたくなかった秘密を全て知られてしまった。 ――エレテリカが変わらないのは分かっていた。 ――それでも俺は、俺のために知られたくなかった。なのに、全てを知っても変わらずに接してくれる事実が嬉しいのは、隣を歩いてくれるのが喜ばしいのは何故だろうな。 策士の頭脳であれば答えを導くことも可能だったが、あえてその感情は答えの内感情として胸の奥に仕舞うことにした。 途中、城外へ出てくるヒースリアたちと遭遇した。 「なんだ? 外に出て行ったのに、また戻ってきたのか?」 ハイリの言葉にカサネは頷く。 「えぇ。そろそろ決着がついた頃だと思いましたからね。リテイブ。貴方が生きていると言うことはルドベキアを打ち取ったのですね」 「当たり前だ。俺が失敗するわけないだろ」 「上々。私は生きのこった臣下たちと話を通して纏めてきます。出来れば不足の事態に備えて貴方がいてくれると嬉しいのですが」 「御免だ」 「では、カイラ。不本意かもしれませんがお願いできますか?」 断られることは予め承知だったようで、カサネはカイラへ視線を向ける。 「構わない」 「では宜しくお願いします」 カサネ、エレテリカ、カイラが城の中へ足を運んだあと、ハイリはしまったと思った。ついていかなかったばかりにヒースリアと二人っきりになってしまったのだ。しかし、同伴したところで足手まといにしかならないので結局選択肢はなかっただろう。 「あっ! 腹黒執事と治癒にーさん!」 雪を爽快に弾き飛ばしながらかける人物へ視線を向けるとラディカルがいた。 ラディカルは腕から痛みがはしって顔を顰める。腕だけじゃない、怪我が完治していないのに走ったせいで、身体中が痛い。 「ラディカル。お前どうしたんだよ!」 ハイリの言葉に、ラディカルは何と説明するか迷った。どう説明したところで自分の実力不足なだけだ。 「……俺の実力不足っすよ……イ・ラルトの人に負けて。逃げて怪我をして動けなかったんす」 「まぁ海賊もどき風情ですからそれは仕方ないですよ」 「うぐっ。反論したいところだが、できねぇのがつらい……」 ヒースリアの辛辣にもラディカルは反論する術を持っていなかった。 どう言葉を変えようともそれは言い訳にしかならない。 負けたのが事実だからラディカルは反論せずに言葉を受け入れた。 反論されなかったことを意外に思ったヒースリアも、それ以上辛辣な言葉は続けずに、言葉を切り替えた。 「まぁもう全ては終わるみたいなので、あとの始末は策士の仕事です」 「そっか」 「えぇ。私たちの仕事は終わりです。あとは、馬鹿主たちが戻ってくるのを待つだけですよ。戻りますよラディカル」 「あぁ」 ラディカルはハイリが戦えるものに関して治療費が莫大なのを知っているので怪我を直してほしいとは頼まなかった。 助けてもらった人には黙って飛び出してきてしまったから後でお礼に戻らなければなとラディカルは思う。例え、半魔族だと知らなかったからの行為だったとしても――助けられた事だけは事実だ。彼が助けてくれなければ命を落としていたことだろう。 今此処にラディカル・ハウゼンが生きていられるのは、命を見捨てないでくれた優しさがあったからだ。 [*前] | [次#] TOP |