零の旋律 | ナノ

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 ラディカルが、イ・ラルト帝国まで奔走する。
 勝手に動いて怪我をして休んでいる間に、カサネはイ・ラルト帝国へ攻めた。その事実を知ったのはつい先刻だった。
 怪我が完治していないのだからといって引き留めようとする恩人の手を振り払って進む。
 どうせ――半魔族だと知られればその温かい手は振り払われるのだから気にする必要はないと無理矢理自分を納得させる。
 イ・ラルト帝国へ入ろうとすると、そこから出てくる一人の青年と出会った。
 包帯を巻いた――ラディカルを傷つけた張本人ノハだ。相変わらず包帯を全身に巻いていて怪我の状態が酷いことはわかるが、真新しい怪我は殆どおっていないことがわかる。

「あれ、戻ってきたんだ」
「……包帯のお兄さんは何処にいくんすか」

 始末屋アーク・レインドフのことを今にも死にそうなお兄さん呼びをしているが、此方の男の方がよほど今にも死にそうだとラディカルは思った。

「僕? そうだね、暫くは適当にさまようよ」
「は? どういうことっすか。お兄さんはイ・ラルトの人でしょ」
「だけど、約束は反故にされた。ならば、僕が此処に留まる必要性はないし、僕が約束を順守し続ける決まりもない。僕は僕の好きなように動くだけだ」
「えーと?」

 ラディカルはノハの言葉を吟味する。

「つまり、俺がイ・ラルト帝国の中に入ろうとしてもお兄さんは見逃してくれるってことでいいっすか」
「うん。どうせ――君じゃないし」
「は?」

 ラディカルが怪訝すると、ノハは凄惨な笑みを浮かべた。

「ううん、こっちの話さ。どうぞご自由に」

 ノハがイ・ラルト帝国を指差す。
 ラディカルは恐る恐るノハの横を通り抜けたが、ノハがふいをついて攻撃をしてくることはなかった。ノハの実力であれば不意をつく必要がないことを嫌というほど理解しているが、それでも安堵した。
 雪を踏みしめながら先ほどの言葉が脳内を木霊する。

 ――どうせ、君じゃないし

 果たしてそれはどのような意味だったのか、ラディカルにはわからない。


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