零の旋律 | ナノ

Siadユリファス:収束へ向けて


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 異世界エリティスからユリファスへ彼らが帰還した時よりも少し時間は遡る。
 ヒースリアは怪我をした場所を軽く応急処置して、広々とした廊下を歩きまわりながらハイリを探していると、カイラを先頭にして守られるようにハイリが歩いている姿が見えた。

「リィハ」

 ヒースリアが声を出すと、ハイリは一瞬驚いてから声のした方へ視線を向けると怪我だらけのヒースリアが視界に映った。慌ててハイリは駆けだす。

「ヒース!? お前大丈夫なのか!?」

 ハイリは慌ててかけてくる。

「大丈夫だ。治せ」

 ヒースリアが端的に命令をすると

「お前今度は俺を殺そうとするなよ」

 若干顔を引き攣らせながらハイリが答えた。

「何だ? 昔腕を切りつけたことまだ根にもっているのか? 器の小さいやつだな」

 ヒースリアは冷笑する。嘗て執事として雇われたばかりの頃、ヒースリアは見知らぬ男に怪我の治療をされるのが嫌で、ハイリの腕を切りつけたことがある。
 それ以降暫く、ハイリはヒースリアを怖がっていた。今でこそ普通に接することが出来るようになったハイリだが、腕を突然切られた記憶が消えたわけではない。

「うるせぇ。治療しようとして腕切られたのは初めてなんだ! 根に持つに決まっているだろ」
「見知らぬ男に治療されたくなかっただけだ。今は別にお前のことを知っているんだ。切りつけるより怪我を治す方が先決だ。第一、お前殺そうと思えばいつだって出来る」
「そりゃ事実かもしれないが酷いだろ! あとお前猫被っとけ! そっちの口調は怖いんだ!」
「はいはい、わかりましたよ。では治してくださいね」

 ヒースリアは床にどさっと座る。口調だけは執事のヒースリア・ルミナスに戻ったようだが、その態度は無音の殺し屋の方をにおわせていた。
 ハイリはヒースリアの治療を始める。あちらこちら怪我が酷い。怪我が深い部分もある。その様子を淡々とカイラはハイリの杖を持ちながら眺めていた。

「……良かった」

 ぼそりとハイリは呟く。意味が理解できなくてヒースリアは眉を顰める。

「何がです?」
「お前が生きていてだよ。こんな怪我をしているんだ、下手したら死んでいてもおかしくなかったってことだろ」
「……俺がアークを殺す前にくたばるわけないだろ」

 息を吸ってからヒースリアは答える。

「そんなの、そう思いたいだけだ。誰がいつ死ぬかなんてわからないんだから……」

 ハイリの脳内には大好きだったユーエリスの姿が浮かぶ。

「……そうですか。でも安心して下さい。私は主を殺すまで、何度殺されようとも蘇りますから」

 ユーエリスの姿が見えない。その事実とハイリの態度から何が起きたのかを察したヒースリアだったが、何も言わなかった。

「なんだそれ不気味すぎるだろ。あぁそうそうヒース」
「なんです?」
「戻ったら治療費は請求するからな」
「ぼったくり」
「それが俺なもんで」

 ハイリの言葉にヒースリアは笑った。




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