零の旋律 | ナノ

V


「そうだな、こっちは問題ない。ユエリはミルラがユリファスに連れて帰るそうだ。有無は言わせないって態度だったぞ。俺は戦いたいって主張したんだが聞き入れられなかった」
「それはミルラに限らず聞き入れてもらえないでしょうね」
「ははっ」
「彼女は納得していないみたいだけれど……それでもミルラは意志を翻さないでしょうね」
「あぁ。お前の意見なんかしらんって態度で連れて帰るみたいだ」

 意見を無視しながらも、その瞳が優しいのだからとホクシアはため息をつく。

「ジギタリスの目はやっぱり駄目だが、命に別条はなさそうだ。何よりジギタリスはしぶといからな。王子様は、後半からはもう治癒に駆けまわっていたな。そろそろしんどいって言っていたよ」
「そりゃシェーリオルは色々と魔導を連発していたもの当然でしょうね……むしろまだ動ける方が不思議よ」
「だな、ホクシア。リーシェに傷治して貰ってこい。ジギタリスが喜んで変わってくれるぞ」
「治療を拒否する貴方達は何なの? マゾなのかしら?」
「優先順位が違うだけだ」
「はぁ。呆れた。まぁ私も満足に動けないから、割り込んでくるわ」
「酷いです―! 主! 私には治療の必要ないと言うのですかー!」

 ホクシアを支えているリアトリスがいつもの調子で抗議する。左手で怪我をしている部分を指差して主張する。

「今までヴィオラとホクシアを支えていたやつは元気だろ」
「私しか動けないんだからしかたないじゃないですかー!」
「ホクシアが動けないんだから優先だろ」
「まぁそうですけど。乙女をいたわってくれない主に抗議がしたいだけなので」
「酷いな」

 アークとリアトリスは共に笑う。

「あーあ。ヴィオラとも戦いたかったな」
「それ、きっと最高の褒め言葉だよ」

 素の口調でリアトリスが言う。
 戦闘狂にとっての戦いたかったな、は褒め言葉だ。
 下手な慰めよりもずっといいとリアトリスは思っている。
 ホクシアを連れて、リアトリスはシェーリオルの元へ歩いて行った。ジギタリスがこれは幸いだと治療をホクシアへ譲った。

「お前……本当に治療拒否するなよ……」
「私よりホクシアが先だ。私を先にしているとミルラに殺されるぞ?」
「ははっ確かに」

 ジギタリスの冗談にシェーリオルが笑いながら返答する。但し、言葉としては冗談でも実際ホクシアの怪我を放置していればミルラが鬼の形相で魔法を駆使しだすだろう。
 疲労困憊――それでも休むこともせず治癒術を行使しているシェーリオルでは、勝ち目がない。

「怪我、大丈夫か?」

 シェーリオルがホクシアに声をかける。柔らかい言葉に、ホクシアは不思議な気分だった。
 魔術師が紛れ込んでいる自体が発覚して対処に当たる時『魔法封じ』を警戒して始末屋を魔石で雇った。
 王族――リヴェルア王国と手を組むのが最善だとわかっていながらも、人族と組みたくない思いが強くて最良から目をそむけていた。それなのにこうして時を重ねれば、王族と手を組むことも悪くなかったと思えるのだ。
 果たしてそれはシェーリオルの人柄なのか、それとも溝は双方が思うことで深くなっていたのか。

 ――いえ、単にシェーリオルだからだわね。
 ――私たちと人族の溝は簡単に埋まるものじゃないのだから。

「えぇ。怪我は大丈夫よ。貴方こそ治癒術を連発していて平気なの?」
「まぁ問題はない。世界ユリファスに戻るのはミルラがいれば問題ないだろうからな……ただ専門じゃないから治せる怪我の範囲が限られているのがつらいよ……もっと治せればよかったんだけどな」
「治癒術も完璧だったら贅沢過ぎるわよ」

 ミルラも治癒術は扱えないのだから。ホクシアはそう思ったが口をつぐんだ。ミルラから抗議の声が上がりそうだったからだ。

 リアトリスはひとまずアークの元へ戻る。

「皆休んでから、ユリファスへ戻ろうぜ」
「りょうかいですーって主! この屍祭りで休むのですか!?」
「ん、そうだけど。下手に移動は出来ないだろ」
「情緒もへったくれもないですね! 呪われますですよ!」
「呪われるなら、死体が蘇ってもう一戦しときたいわ」
「うわー呆れるですー呆れ通り越して殴りたいです―」
「よし、何時でも来い。戦いなら大歓迎だ」
「いやですよーしませんよ。大体、私はアークのこと、リテイブに譲っただから、殴らないよ」
「そっか」
「そうだよ。私はもうアークとは戦わないよ」

 笑顔でリアトリスは告げる。アークは残念だ、と呟いた。


- 435 -


[*前] | [次#]

TOP


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -