U 「いや、お友達じゃない。片方はカルミア。もう片方は俺の標的だったんだが」 「主ついに負けて今は仲良く晩酌ですか!?」 「いや、強制的に依頼破棄されたんで」 「あうわ。何があったのですかー仕事中毒の主がそんな凡ミスをやらかすなんて到底信じられません。食中毒にでもあいましたか?」 遠慮を知らないものいいにアークは主ではないのかと、ローダンセの中で疑問が湧く。 「カルミアに依頼主を殺されたんだよ」 「ほわーそうだったのですか。仕事中毒の主に仕事破棄させるなんて流石」 「流石って何だよ、流石って」 「主の仕事の妨害を出来る方は無条件で流石扱いするようにヒースと取り決めたのです」 「入らぬ取り決めをするな」 「同盟を組んだのです」 「同じだ」 二人の会話に、ローダンセは瞬きを繰り返しながら、何が起きているのか必死に理解しようとする。 「じゃあカルミアさーん、主が今すぐ食中毒を起こしてぶっ倒れるような料理を作って下さい」 左手を腰に当てて右手でピースを決めるリアトリスに、カルミアは苦笑する。 「おい、ぶっ倒れたらお前の仕事が増えるんじゃないのか?」 「いえいえそんなことはありませんよー。引きずる事が出来るのですから! 一石二鳥です」 「俺を虐められて同時に帰宅出来る一石二鳥か?」 「その一石二鳥です」 ノリのいい会話にローダンセは呆然としている。どう判断すればいいのか決めかねていた。 「ととと、長々とどうでもいい話をしていても意味がありませんね。主、依頼破棄されたのなら怱々に帰りましょうよ」 「そうだな」 依頼がない以上長居する必要性は皆無だ。立ち去ったところで問題はない。 「ま、待ってくれ!」 それを止めたのはローダンセだった。 「何?」 「手伝ってくれ」 何をとは云わない。云わなくても伝わる。 だからこその言葉。 「……依頼とあれば手伝う事も出来るが、だがお前は俺に報酬を払えるのか?」 冷たく突き放す一言にローダンセは言葉に詰まる。 「止めといた方がいいですよー。主は傍若無人で悪逆非道ですからー。主が慈悲で動くことはまずありませんよ」 リアトリスがアークに続く。それがローダンセの心を抉る事と知って尚。 決してリアトリスはローダンセの味方ではない。ましてや出会って数分の相手となればなおさらのこと。 「……だが」 ローダンセはアークの実力の高さを目の当たりにした。アークの実力であれば、ジギタリスがいたとしても、一塁の望みに繋がる。 「依頼と報酬はなんとかするさ」 だからこそ、覚悟を決めるしかない。これ以上手をこまねくわけにはいかない。 「……ほう」 アークの目つきが変る。 「依頼と報酬は何とかする。例えお前がどんな悪人だったとしても構わない。金で動く輩でも構わない。尻込みをしていれば、もう取り返しのつかない事になる。その前に俺は何とかしたい。だったら、例えどんな悪人を使おうが、構わない」 一つの決意。清廉潔白に事を行おうなんて当初から思ってもいない。少しでも市民の暮らしが良くなるなら、自身の手を汚そうとも構わない。ならば――始末屋に力添えを頼むのも同様だ。 「ふーん、まぁいいよ」 仕事であり、依頼ならば断る必要はない。 「良かったですねー。主は暴虐非道ですけど、依頼には忠実ですからーって主! どうしてくれるのですか」 リアトリスは矢継ぎ早にまくし立てる。 [*前] | [次#] TOP |