零の旋律 | ナノ

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 統制の街の外に出ると、騎士団との争いも終結していた。地面にに座って休憩しているようだ。
 アークが人の気配を察知して視線を向ける。リアトリスとホクシア、それに担がれたヴィオラの姿が視界に入った。
 アークは立ちあがって近づく。ヴィオラが死んでいるのを確認したアークはリアトリスから彼を受け取り抱きかかえる。

「強い奴と戦えたか?」
「別に私は戦闘狂じゃないわ、貴方と一緒にしないで」
「そっか」

 第一声がアークらしい言葉でホクシアは口元が緩んだ。
 ホクシアが驚くほどにアークは怪我をしていた。恐らく大半は常盤衆の統領であるスイレンと戦った怪我であろうが、傷ついた万全ではない身体で、激戦を繰り返してきた中で怪我が増えていったのだろう。

「ヴィオラは道を開いてくれたんだな」
「えぇそうよ」

 ヴィオラの事は真っ先に気付いたが、だからこそアークは言葉を後にした。ホクシアにもそれがわかった。

「そっか。ホクシアもリアもヴィオラも――お疲れ様」
「えぇ。そっちは?」

 自分がいない時間の情報をアークへ求める。
 シェーリオルやジギタリス、ミルラは無事に生きているようだ。心の中で安堵する。

 ――おかしいわね。ミルラは死ぬはずないってわかっている。
 ――人族に対して無事に生きていて安堵するなんて。

 ホクシアは不思議な心境だった。
 シェーリオルはジギタリスの治療に専念しているようだ。

「私のことはいいからレインドフの怪我を直したらどうだ」
「いや、お前もよくねぇ。重症だ」
「せいぜい中傷だ」
「んなわけあるか」

 不毛な争いをしているのが耳に聞こえてきた。
 ジギタリスもアークもどうしてこうも治癒術に身を大人しく任せておけないのだろうかとホクシアは思う。
 ミルラの隣には、ミルラの魔法で生み出された水の糸に絡まっている女性がいた。
 この場において敵でありながら生きている唯一の存在ユエリ・クライニングだ。
 彼女の瞳は殺意に満ちて、ミルラを睨んでいるが、一方のミルラから向けられる視線は慈愛に満ちていて、それがまた彼女をいら立たせているのだろう。水の糸を何とかしてほどけないものかと魔法を駆使しようとして失敗している。
 ホクシアはわかっていた。
 ミルラは魔族を愛している。ミルラが世界エリティスにおける唯一の魔族であるユエリ・クライニングの相手をした以上、彼女は生きていると。
 また、人族であるアークやジギタリス、シェーリオルが彼女を殺そうとしてもミルラは彼女を魔の手から守っただろうことも容易に想像がつく。
 魔族であれば敵だろうが味方だろうが殺せない男、それがミルラだ。



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