零の旋律 | ナノ

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 男の紫電が再び襲う。原理は不明だが結界を通り抜ける。二度も同じ手は喰わないとホクシアは雷の魔法で相殺を狙う。激しく稲妻が衝突しあう。視界に白と黒以外に色を拒むような眩い光。ホクシアは距離を詰める。眩しくてよく見えないが、相手が何処にいるかは気配でわかる。
 相手も同じようだった。短刀がホクシアに向かって投げられる。太股に突き刺さる。
 痛みで距離を詰めるバランスを崩しそうになるが、踏ん張る。
 此処で倒れれば相手が己の脳髄を破壊する。

「つあああ!」

 ホクシアは痛みを忘れるかのように咆哮する。視界が途端、元に戻る。
 相手の魔術だ。けれど関係ない。ホクシアは刀を振るう。小手が仕込まれていない方の腕を捉えた。

「くそっ!」

 刀をさらにめりこませようと力を込める。男はホクシアの腹部を強打する。刀がホクシアの手から零れる。

「かはっ」

 息が肺から漏れる。男は刀を掴み、無理矢理抜き去る。

「あぁ。痛くて泣きそうだ」

 刀を放り投げると、窓を突き破って外へ落下していった。ホクシアはよろよろと立ちあがる。刀がない以上、あとは魔法で応戦するしかない。

「痛いならさっさとくたばりなさい」
「御免だな」

 刀を相手は構える。武器を奪った以上有利だと思っているのだろう、口を歪めていた。
ホクシアは距離をとり、魔法で仕留めようと己の周りに電撃を這わせる。彼女が得意とするのは雷属性の魔法だ。
 相手は距離を不用意に詰めたら黒こげにされてしまうと肌で実感する。この辺一面が電気の渦と化している。ならば魔術で応戦するだけだ、と判断する。
 魔術と魔法が衝突しあう。雷と雷の攻防戦。
 眩い光が何度もはじけては消滅する。突風が巻き起こる。まるで自然の嵐が起こったかのような光景だった。
 ホクシアの腕を雷がかすめる。燃えるように熱い。一瞬だけ魔法が不安定に揺れたが、すぐさま持ち直す。痛みで集中をとぎらせるわけにはいかなかった。
 魔法と魔術が交錯しあう。極限状況の中でホクシアは、もう一つ魔法を詠唱した。

 ――私はミルラやシェーリオルのような規格外の魔法を操ることは出来ないけれど、それでも
 ――魔族として魔法で負けるつもりはない。

 重ねられた詠唱が、重ね合わさってさらなる威力を生む。

「なっ――」

 相手が驚愕する。雷の威力が長髪の男が詠唱した魔術を上回ったのだ。
 消えていく己の攻撃のかなめにして防波堤。
 それらが失った時無防備な男の前に晒された雷の渦。男の身体に直撃した雷は、相手を死なせる。
 相手が死んだのを確認してホクシアは魔法を納める。息が荒い。
 雷を、血を流した場所が痛むが、まだ終わっていない。けれど視界が一瞬真っ暗になって倒れそうになる。それをリアトリスが横から支えた。

「大丈夫ですか?」
「えぇ……貴方には借りを作ってばかりね」
「沢山作っておいた方があとでいいことが起こるんですよ」
「私には起こらない気がするけど……。もう少し抑えていて」
「わかったです」

 リアトリスの支えがないとホクシアは動けないほど疲弊していた。
 最高責任者の男は二人の護衛が破れた事実に驚きこそすれ、逃走は考えていないようで玉座に不動だった。あの争いの中でも不動だったのかと思うとホクシアはこの男に最高責任者としての姿勢を見せつけられた気がした。

「――そう。それが貴方の態度なのね」

 男の前に立つ。男は何もしない。ホクシアは屈んで長髪の男が扱っていた刀を拾う。

「全く持って遺憾だ。けれど、我らは諦めないよ、そこに世界がある限り。私が死のうとも何度も奪い続ける。生き残るためにな」
「いいえ。終わりよ、これ以上世界エリティスは世界ユリファスに干渉なんて出来ないわ――させない」

 ホクシアは宣言と共に刀を男の心臓に突き刺した。最後まで男は玉座から不動だった。
 逃げも、命乞いも反撃もしない。男が選んだ責任者としての道だったのだろう。
 ホクシアには――理解出来ない行動だったが。



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